見出し画像

【冒険ファンタジー長編小説】『地下世界シャンバラ』15

三、グルドが手に入れたもの

 グルドたち四十人の山賊は歓迎館での食事に飽きると、次は財宝の話をし始めた。
 グルドは給仕に言った。
「おい、シャンバラには財宝がたくさんあるんだろ?」
給仕は答えた。
「財宝?大昔に価値あるものとされていたものですか?それなら宝物館にあると思いますが」
「宝物館?ちょっとそこに俺たちを案内してくれないか?」
「いいですよ」
給仕はグルドたち四十人を連れて田舎道を歩き、田園の中に建つ黄金の屋根を戴く宝物館に向かった。グルドたちはその黄金の屋根を見ただけでニヤニヤし始めた。
「こいつぁ、お宝がありそうだ」
中に入ると、ショーケースもなく展示棚の上にむき出しで財宝が陳列されていた。
グルドは言った。
「おい、おめえら、俺がいいと言うまでお宝に手を出すなよ」
「あいよ、親分」
グルドは給仕に言った。
「なあ、この財宝を俺たちにくれねえか?なに、全部とは言わねえ。ひとりひとつかふたつでいいんだ」
給仕は言った。
「欲しいなら、貰ってもいいんじゃないですか?でも、こんな物を持って行ってどうする気です?」
グルドは叫んだ。
「野郎ども、許可が出た。貰ってもいいいとよ」
その言葉で四十人は財宝を奪い取る野獣と化した。
 給仕は呆れてしまうとともに憐憫の情で彼らを見た。
「くだらないものに夢中になってかわいそうに」
グルドはせっかくだから一番上等な財宝を頂こうと物色した。そして見つけたのは、他の展示品とは明らかに違う厳かな展示の仕方をしてある、握り拳ほどある大きな黄金のダイヤモンドだった。
「これはすげえ。黄金のダイヤなんて初めて見たぜ。ひひひ、こいつぁ俺の物だ」
グルドは懐にそのダイヤモンドを入れた。
「親分、みんな財宝は手に入れた」
とある子分が言った。
「でも、財宝より先に手に入れるべきものがあったはずと俺たちは気づいた」
と別の子分が言った。グルドはニヤリと笑って答えた。
「女か?」
「さすが親分、察しがいい」
グルドは言った。
「おめえら、男にとっての宝は金でも銀でも宝石でもねえ。女だ。美女だ。それを俺が忘れると思うか。一番の楽しみは最後に取っておくのが俺の流儀だ。ただちに女を犯しまくれと、俺は言いたいところだが・・・」
「言いたいところだが?」
子分たちは次の言葉を待った。
「強姦事件を起こすとシャンバラの復讐を受ける可能性がある。だが、シャンバラは気前がいい、財宝を好き放題取らせてくれたように、女も好き放題できるか聞いてみようぜ」
とグルドは言うと子分たちは盛り上がった。
「いいぞー、親分」
グルドは近くにいた宝物館の学芸員の男に訊いてみた。
「女を抱きたいが、ここの女はやらせてくれるか?」
学芸員は答えた。
「シャンバラはフリーセックスなので同意があればいくらでも」
グルドは叫んだ。
「聞いたか野郎ども。同意があればいくらでもやれるってよ」
「おおおおー、そいつはすげえ」
「口説きに行くぞー」
男たちは宝物館をあとにして散り散りになった。
 グルドは女漁りには行かなかった。村の中を探し回った。ライを。
 ライはキトと並んで話をしながら田舎道を歩いていた。それをグルドは呼び止めた。
「おい、小僧」
ライは振り向くと、攻撃の構えを取った。
グルドは言った。
「ちょっと待て。おまえと戦いたいわけじゃねえんだ」
ライは言った。
「そっちがその気じゃなくても、俺は父さんを殺されたわけだからいつでもお前を殺す気だ」
グルドは言った。
「今は待て、そうじゃない。俺は人を探しているんだ」
「人?」
「メイだ。おまえの母親だ。たしか、シャンバラに来ているはずだろ?」
ライは構えを解かずに言った。
「母さんは死んでいた。洞窟の中で、シャンバラへの扉を開くことができず、飢えか何かで死んだ。そのときのメッセージが岩に刻まれてあった」
「本当か?メイは本当に死んだのか?」
「そんなに疑うならば、洞窟に戻って確かめてみろ」
グルドは何とも言えぬ表情をしてライに背を向け、洞窟のほうへ戻って行った。
 洞窟へ向かう途中にある歓迎館前でパンチョが太った女を口説いていた。
「君はなんて美しいんだ。太った脚、大きなお尻、出たお腹、ボインボインのおっぱい、ブタみたいな顔・・・君はまるでブタだ。天使のような・・・」
「おい、パンチョ」
「なんだよ、親分、俺はせっかくいい女を見つけて口説いてるのに」
「どこがいい女だ。そんなことより、全員集めろ。帰るぞ。もうシャンバラには用はない。財宝だけで充分だ」
「なんだよ、親分、もう女とやっちゃったのかよ。俺は見ての通り口説いてる途中なんだ」
「女は地上にもいるだろう」
「みんなの意見を代表して言いますけどね、親分。みんなは財宝や女や美味い食事が目当てで親分についているんだ。女を抱くまでは帰れませんよ」
「じゃあ、わかった。女を抱いたらすぐに地上へ帰れとみんなに言っておけ。俺は一足先に帰る」
グルドは走って洞窟のほうへ行ってしまった。
「なんだよ、親分。そんなに飽きるほど女を抱いたのかよ・・・。(女のほうに向かって)おお、君よ、行かないでくれ、君はなんて美しいんだ。太った脚、大きなお尻、出たお腹、ボインボインのおっぱい、ブタみたいな顔・・・君はまるでブタだ。天使のような・・・」
 グルドはひとり洞窟の中に入った。そして、シャンバラと地上を繋ぐ液体の壁をくぐり抜けた。
 そして、辺りの岩をランプで照らして調べた。地面には白骨死体が散乱している。
 あった。壁の下のほうに文字が刻まれてあった。それはメイが息子ライに当てたメッセージだった。その内容にはグルドのことなど触れられていなかった。だが、ここに来て死んだという事実はわかった。グルドは泣いた。自分のことなど眼中にない女、その女に一方的に恋し、死ぬ時まで全く無視をされても自分にとっては最も愛した女だった。グルドはたくさんの女を抱いたことがある。その中のひとりに産ませた子供がキトだ。だが、グルドにとって最も忘れられない女、それがライの母親メイだった。グルドにとって長い青春がようやく今終わったような気がした。
 すると液体の壁から出て来た男がいた。パンチョだった。次に液体の壁から出て来たのは剣士バドだった。それから次々と仲間たちが出て来た。そして、全員集まった。いや、スネルがいない。
「誰か、スネルを知らないか?」
「そもそも、向こう側に行ったときから見てないぞ」
「俺も見てない」
男たちは口々にスネルの不在を語った。
グルドは言った。
「まあいい、あいつはよく働いてくれた。シャンバラで楽しんでいるならば楽しませておこう」
グルドは訊いた。
「みんな、女は抱いたか?」
「抱けなかった」
「抱けなかった」
「抱けなかった」
「時間がなかった」
「シャンバラの女、ガードが固いよ」
グルドは笑った。
「わっはっは、俺も抱けなかった。よし、地上に戻って女を抱くぞ」
山賊たちは意気揚々と洞窟の出口に向かって歩き出した。
 地上に出るとさっそく、宝物館で得た金貨を使って、ツォツェ村で酒を飲み肉を喰らった。
 グルドは言った。
「かぁ~、うめえな、地上の酒は。肉も最高」
「次は女の柔らかい肉を堪能してえな」
子分が言うと、グルドは言った。
「任せておけ。マール国の歓楽街で豪遊するぞ!」
「おおー!久しぶりだな。女、女」
「お・ん・な」
「お・ん・な」
「お・ん・な」
 グルドたちは饗宴し眠った。
 そして翌朝、ツォツェ村をラパタ国へ向けて出発した。
 
 
 グルドたちは途中異変に気付いた。前方から徒歩の軍勢の足音がするのだ。グルドたちは岩陰に隠れた。谷底の道を見下ろすその位置からグルドたちは鎧で武装したアガド将軍の軍勢が徒歩でツォツェ村に向かって行進しているのを見た。
剣士バドは言った。
「アガド将軍だ。五百人はいるな」
「あんな大勢でシャンバラへ行くんすかね?」
パンチョが言うと、グルドは言った。
「シャンバラにはまだキトがいる。もしあの軍勢が、シャンバラへ攻め込んだら?シャンバラって無防備だったよな。俺たちのような山賊をもてなしてくれたし、財宝は気前よく分けてくれるし、一応フリーセックスだったし」
バドは言った。
「助けに行くか?」
グルドは首を横に振った。
「いや、キトはもう自立している。自分の身は自分で守るだろう。それにあんなにたくさんのアガドの兵士たちが洞窟を占拠したら、そこを通ってシャンバラへ行くことなど不可能だ。俺たちは引き上げたほうがいい」



前へ     次へ


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?