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【小説】野糞(のぐそ)

       *
 
 これは、本来ならば長編として構想すべき小説の最終章のみを一編の短い小説にした物である。
 主人公は「私」で、四十代男性、独身一人暮らしのアルバイトで生計を立てている。「私」は、茶畑の中に建つ一階建ての公営住宅に住んでいる。「私」は仕事のない日は、その部屋の窓から茶畑で為される農作業を見て過ごすのが趣味である。悪趣味とも言える。と言うのは、「私」の目的は、長閑な農作業自体にあるのではなく、そこで働く娘、まだ十代と思われる農家の娘を見て過ごすことを楽しみとしていたからだ。彼女の顔を見るために望遠鏡まで買って観察するのが趣味なのだ。
 これはそんな悪趣味な小説の最終章である。
 
 
○  最終章
 
 農繁期、茶畑でお茶刈りを終えて、帰り支度をしている夕方、父親と母親が畑の向こうの軽トラックに茶袋を積んでいるとき、娘はこちら側、つまり私がいる公営住宅側の畑の隅に来た。そこは私のいるところからようやく望遠鏡で彼女の顔が確認できる程度に距離が離れていた。
 私は望遠鏡で彼女の顔をアップにして見ていた。
 ああ、可愛い。なんとかして彼女と付き合えないだろうか?いや、私は年齢的には彼女の親の世代だ。あの奥さんの方が歳は近い。それなのに娘の方に恋をするなど、やはりこれまで、女というものと縁のない生活をしてきたのがいけなかったか?まあ、いい。こんなふうに可愛い娘をこっそりと覗ける楽しみがあるのだ。これは私の完全なるプライベートだ。
 すると、彼女の顔が望遠鏡の円から下へ突然外れた。私は何が起きたのかと思い、望遠鏡の角度を下げた。すると、彼女はしゃがんでいて、作業用ズボンを下ろした状態だった。いや、ズボンだけではない。下着も下ろしていた。彼女は気づいていないだろうが、私の方から見れば、彼女のアソコが完全に見えてしまう向きで彼女はしゃがんでいた。
 私はじっくりと見た。彼女のアソコを。今から何が起きるのかを。生唾を飲み込んで。
 すると彼女のアソコの割れ目から、夕陽を浴びて金色に輝くお小水が出た。それは下の柔らかな土に溶け込んでいくだろうと私は想像を逞しくした。あの美しい体から出たものが大地に帰って行く。
 しかし、帰っていくものはそれだけではなかった。彼女の美しい割れたアソコの向こう側、金色に輝くお小水の向こう側に黒く長細い物が降りてきた。
 くそだ!美しい娘の尻から糞が出てきたのだ!
 糞はバナナのような形で、にゅるにゅると、下の土に蜷局とぐろを巻いて降臨した。手前に落ちるお小水の滝の輝きが、まるで糞自らの輝きであるかのように光彩を放っていた。
 そして、降臨が終わり、お小水の滝も水が尽きると、娘は尻も拭かずに立ち上がりながら、下着と作業用ズボンを引き上げた。そして、帰り支度の整った軽トラの両親の方へ走り出し、そのまま荷台の茶袋の上に乗っかると、彼女の体は刈り獲ったばかりの、恐らく茶の芳香のする茶袋の間に沈み込んだ。美しいものが、美しい香りの中へ沈みこんだ。私にはその光景を照らす夕陽を含め全てが美しく見えた。
 軽トラがエンジン音を響かせ、茶畑を出て行くと、私は大急ぎで、靴を履き部屋を出た。
 場所は大体わかっている。毎日見ている茶畑である。私は夕陽の消える前にそこに行かねばと、運動不足の四十男の体を揺らして、茶畑に入った。
 こっちだ。こっちのはずだ。
 私は自分の公営住宅が小さく見える茶畑の際に来た。
 私は茶畑のこちら側から自分の公営住宅を見るのは初めてだった。広大な茶畑の中にそれは小さく申し訳なさそうにポツンとあった。あそこから私はいつもこちらのあの娘を見ていたのか、そんな感慨が浮かんだが、西を見ると、もう陽が山の向こうへ隠れ始めていた。
 私は問題の物を探した。これで今晩のおかずが、百となるかゼロとなるか決まる。そのくらいに私は焦っていた。
 そして、私は見つけた。
 濡れた地面に、それは柔らかく茶色で蜷局を巻いていた。まだ、蠅さえも来ていない。私が一番乗りだった。
 私は地面に膝をつき、土下座するみたいに頭を下げ、その匂いを嗅いだ。若い、大地と共に生きていく自然のままの娘の匂いがした。私は目の前にあるそれを手で触ってみた。柔らかく、幾分、ぬくもりが残っていた。
 私は当然、それを今晩のおかずに持ち帰ろうと思った。
 しかし、私は自分の住む公営住宅とこの茶畑を見比べ、ある犯罪的衝動が、胸を、尻を、そして、その穴を突き動かした。
「この上に、自分のものを重ねたい・・・!」
 私はズボンのベルトを外し、スッと、それを下げ、娘がそうしたように、下着も下げながらそこにしゃがみ込んだ。
私の穴の下には娘の残したそれがあり、私は夕陽を見ながら、この広大な茶畑の中で、自然と一体になった。つまり、娘のそれに自分のそれを垂らした。ブリブリなどという音はせず、穴から押し出るメリメリという音が、やけに耳についた。それは確実に娘の蜷局の上に蜷局を巻いて、私の尻と娘の残したものと大地とがひとつに繋がれた。
 私はそれを出し切ることができた。
 娘がそうしたように尻は拭かずに下着とズボンをさっと引き上げながら立ち上がった。
 私は何かを成し遂げたような気分になり、茶畑を出て、公営住宅の方に飛び跳ねて帰った。
 今晩のおかずは何にしようかと考え、スーパーに行ったら、久しぶりに缶ビールを買おうと思った。お祝いだ。
 夕陽は山の向こうに沈んだ。
                                    (了)

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