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London
一文無しという言葉をご存知だろうか?
全くお金を持っていないこと。また、その人のことである。
なんと、クリスマス前のロンドンにて、わたしはその経験をすることとなった。
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というのも、夜に入ったパブで、パスポートやお金など、貴重品諸々が入った、命より大切なカバンを背もたれに掛けるという、誰がどう見てもありえない行動をしてしまったのである。
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時すでに遅し。店を出ようとなった時にはもうすでに、背後からカバンごと盗られていたのである。
今思えば、犯人からしてもラッキーすぎる状況であっただろう。
わたしはなぜか真っ先に、パスポートではなく、旅行中にカメラで撮っていた写真を失ったショックでいっぱいになった。
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居合わせた友人が警察に連絡をしてくれ、ポリスレポートを発行してもらえた。
そこで、家族にも電話をし、即座に戸籍謄本を取りに行ってもらい、なんとか必要書類を揃えて翌日の朝に大使館に行くことが出来た。
本当に感謝してもしきれない。
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しかし、大使館ではなんと、年末年始の休みの関係で、パスポートの再発行が最短で1/5になると言われてしまった。
この時、わたしはクレジットカードも、現金も、キャッシュカードも無く、一文無し。イギリスに残る選択肢はなかった。
そのため、「帰国のための渡航書」という、日本帰国専用の仮パスポートのようなものを申請し、留学生であるにもかかわらず、スウェーデンでの留学期間を3週間残した状態で、日本に帰国することとなってしまったのである。
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そして、後日知ることになるが、もしイギリスではなく、EU加盟国であれば、スウェーデンに帰国することは可能であり、パスポートの再発行もスウェーデンで出来たという。
22歳にして、なんと、遠い国の出来事であったブレグジットを恨まなければならないという事態が発生。
ここで思ったことは、ただでさえ少なく貴重な留学期間を減らしてしまった自分の行動に対するやるせなさと、一緒に旅行をしていた友人に迷惑を掛けてしまったことへの果てしない罪悪感。
しかし、一方、心のどこかで、母国に帰れる、家族に会えることへの嬉しさもあった。
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翌朝、予定通りスウェーデンに帰る友人を見送り、大使館で書類を受け取り、泣きながらヒースロー空港に向かうこととなった。
念の為、盗難に遭ったレストランに戻り、それらしきバッグがあるか聞いてみたが、あるはずもなく。心の中は大嵐だった。
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空港でのチェックインの時、パスポートを見せてくださいと言われ、帰国のための渡航書を出すと、ジロジロ見られた。
そりゃそうである、こんなの持っている人は珍しいのであろう。考えてみれば当たり前のことだが、手続きが終わってから、情けなさに涙が止まらなくなった。
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そして、飛行機が離陸する瞬間、両隣に人がいるのもはばからず、号泣。
今まで旅行でしか飛行機を使ったことがなく、いつもワクワクした気持ちで搭乗していたからこそ、ヨーロッパにいたはずの自分と、現実とのギャップに耐えきれなかった。
飛行機の座席で、クリスマス直前に、ホーム・アローンを見ている自分。なんだか本当に信じられなかった。
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その後、香港で乗り換えをし、大阪に着いたのが、奇しくもクリスマス・イブの朝。
知り合いのJR社員が、香港で乗り換え待ちの時に取ってくれた特急券と、ロンドンで友達が貸してくれた大切なポンドを日本円に替えたお金で切符を買い、自宅に直帰。
JRの、日本語の聞き慣れたアナウンスが、ものすごく現実離れしていて、自分でもおかしかった。
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自宅に到着し、どんな怒声が飛んでくるかと思い身構えると、待っていたのは母と姉の笑い声。
振り切って、わたしがクリスマスプレゼントよ!とばかりに帰ってはきたものの、面食らってしまった。
母はなんと、帰国を喜んでくれた。なぜなら、姉は神社の巫女アルバイトに申し込んでおり、初詣に行くことが出来ないため、一緒に行く人を探していたからである。
災い転じて福となすとは、このことなのか。
その後、シャワーを浴び、急いでパスポートの再発行に向かった。
すると街中はクリスマス・イブ。
すっぴんで髪の毛が若干湿ったまま家を飛び出したわたしは、完全に場違いであった。
災難は続く。
旅券事務所でイギリスで撮った証明写真を使おうとすると、写真の質が悪く、使えないと言われてしまった。
予想しておらず、メイクポーチを持っていないわたしは、ノーメイクでパスポートの写真を撮ることを余儀なくされたのである。
そして、ちゃっかり作ったのは10年用。
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色んな感情が渦巻きながらも、クリスマス・イブで人の少なかった旅券事務所を後にし、母から頼まれた、クリスマスディナー用のお惣菜を百貨店のデパ地下で買い、大好きな阪急電車に4ヶ月ぶりに乗車し、帰宅。
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全然変わってなくて、なんだか泣きそうになった
家族で過ごすクリスマス・イブ。なんと日本で、ヨーロッパ風のクリスマスを過ごしてしまったのである。心も体もトランス状態。
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翌日、向かったのはなんと、神戸のクリスマスマーケット。
ヨーロッパ各所のクリスマスマーケットは、24日のお昼に閉めるところが多いが、日本ではなんと、クリスマス当日の25日までやっていた。
そのため、わたしの留学期間中最後のクリスマスマーケットは、まさかの神戸となった。
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ヨーロッパ中のクリスマスマーケットを回ることが長年の夢であったが、なんと、予想外のリッチな帰国をし、世界中のクリスマスマーケットを股にかけてしまったのである。
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その後、パスポートは1/6に受け取ることができ、置いてきた荷物を取りにいくため、1/8にスウェーデンに戻り、留学生のみんなとお別れをすることが出来た。
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海外で過ごす、年末年始を失ってしまったことは非常に大きいが、自分の住んでいた町に戻り、みんなに会えたことが、心の底から嬉しかった。
不幸中の幸いである。
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この事件を通して、改めて家族や友人の大切さや当たり前の日常の有り難さ、謙虚であることについて考えさせられた。
また、保険加入などリスクに備えることはもちろん、常に安心しきらず、自己管理を徹底することの大切さを思い知ることとなった。
さらに、お金の大切さについても改めて考えるきっかけとなった。
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人生で起きる出来事は、全て必要なことなんだよ、と言ってくれた人がいた。
社会人になる前に、学ぶことが出来て、よかったのかもしれない。
これから、自分である程度のお金を稼ぐ事ができるようになっても、謙虚な心を忘れず、必要なものだけにお金をかけ、日常にある小さな幸せを見つけて生きていきたい。
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次こそ10年、ちゃんと使い切ります。
これを読んで、わたしと同じ被害に遭う留学生が少しでも減りますように。
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