キーマカレーと鴇羽の独白
今日は腰が痛いので、過去の作品を上げてお茶を濁します。25年前、紅さんと眞言さんと鑑知さんの間に何があったのかも、書かなければいけないなぁ…とは思っています。もっと深く考えて解像度を上げます。
キーマカレーと鴇羽の独白――紅と眞言と鑑知
「珍しいよね」
カフェのドアベルを鳴らしたわたしに、黒いエプロン姿の龍が言った。
「鴇羽ちゃんの方が先に帰るなんて」
「眞実耶は遊びに夢中なんだよ」
「言い方」
龍は少しだけ眉間に皺を寄せた。わたしに悪意があったことは否定できない。眞実耶はフリースクールでテーブルゲームに熱中し、「キリのいいいところで帰る」と紅と龍に連絡した。
わたしにはひと言もなかったが、わたしたちはただ紅に命じられて同室に住んでいるだけなので、別に交流する必然性はない。用のある時だけ会話をすれば問題ない。
「まぁいいよ。鴇羽、カレーでいい?」
カウンターの奥の紅は、タオルを巻いた頭をわたしへ向けた。
「うん」
「すぐ出せるから、少し待ってて」
紅は、わたしの父のオム・ファタルである。わたしの父は紅に執着し、そのパートナーだった眞言を殺し、紅の心に一生の傷を植えつけた。かつて親友だったとはいえ、それ以来の紅が父をどう思っているかは、想像に難くない。
しかし、実家から飛び出したわたしを紅は保護し、マンションの一室さえ与えてくれた(眞実耶とのシェアルームではあるが)。
紅の感情がわからない。普段笑顔で顔を鎧っている男だ。その本心は、未熟なわたしではとうてい読み取れない。
ただ、わたしを保護してくれているという事実に、いまだ戸惑っている。
しかし、実家からの収入が絶たれた今、わたしは紅の庇護下に入るしかない。
「はい、キーマカレー」
カウンターに座るわたしへ、紅はスパイスの芳しい白皿を差し出した。紅特製の人気メニューは、水気が少なくハイチ風のドライカレーにも似ている(カレーピラフではない)。
「おいしい?」
スプーンでカレーと白米を口に運ぶわたしへ、紅はにっこりして感想をねだる。
やはり、この男はわからない。
しかし、カレーはおいしい。ひき肉に細かく切ったパプリカを混ぜて、彩りを表現している。炒めた玉ねぎから甘みがよく出て、万人受けするマイルドな味になっている。
わたしが紅についてわかることはただひとつ。職業として成立するほど料理が上手なことだ。
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