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自家発電のうちの子誕生日祝い

こんばんは。
今日はわたしの書く創作のダブルヒロインの1人、迦具土眞言さんの誕生日である。
手前味噌で恐縮だが、ぜひとも祝いたかったので書かせていただいた。
皆様も眞言さんのお誕生日を温かくご覧いただけたら幸いである。

(かめりこさんによる写真ACからの写真)

生まれてくれて、ありがとう

 紅はモデルをしているせいか、体幹に揺らぎがない。平衡感覚も発達していて、歩き方が美しい。
 俺のためにしばしばケーキを買って帰るが、つぶれたり傾いたりしていたことはない。
「もっと褒めてよ」
 と言うので、俺はぎこちなく微笑んで金に近い茶褐色の髪を撫でてやる。そんな時の紅は、俺を守ると意気込んでいる時の強さではなく、恋人に甘える一人の青年としての顔を出している。
 可愛い男だ、と思う。しかしそう伝えると、「君の方がずっとずっと可愛いよ」と言うから困る。
 ともあれ今日は俺の誕生日だ。紅はケーキ屋の包装紙でラッピングされた箱と、ギターショップの紙袋を提げて帰ってきた。ケーキを冷蔵庫にしまい、紙袋を俺に渡す。
「開けてもいいか?」
「もちろん」
 紙袋の中の小さな袋を開けると、アコースティックギターの弦とピックが入っていた。弦は六本分ある。ピックは普段俺が使っているものと同じメーカーだ。
「ギターのことわかんないから店員さんに聞いたんだ。もし眞言の趣味と合わないようなら無理に使わなくていいから」
「いや、気持ちが嬉しい……」
 俺の愛する男が、普段の言動を見てくれている。何が俺にとって必要なのか見極めてくれる。そのことだけで、俺は空に浮かびそうだ。
「焼肉行こうか」
 誘われれば、一も二もなくうなずく。紅の許へ来て、初めて牛カルビを食べた時の衝撃は忘れられない。脂のうまみとパンチの効いたタレは、迦具土の家では味わったことのないものだった。はしたなくがっつく俺を、いつも紅は微笑ましげに見る。
「じゃぁ、着替えよう。匂いがついてもいい服に」
 確かに、紅のセンスのよい一張羅に肉の匂いがついたら後始末が大変だ。紅はよりグレードの低い上下に、俺はスウェットに着替えて、焼肉屋へ向かった。
 ウエストがきつくなるまで食べ、
「ケーキ入る? 平気?」
 と紅が心配してきたが、甘味は別腹だ。都心でも蒼白く輝く月を見上げながらゆったり帰宅する。
 テーブルに着いた紅が箱から出したのは、いつものショートケーキではなく、五号のホールケーキだった。ホイップクリームといちごでぜいたくに飾られ、中央には『まことくんおたんじょうびおめでとう』とチョコペンでメッセージの書かれたプレートが配置されていた。
「……」
 声のない俺に、紅は心配そうな視線を向けてくる。誤解をされてはいけない、俺は言葉を選ぶ。
「……嬉しいんだ。テレビや本でしか見たことのないものが目の前にあるのが」
 俺が言うと、紅は花のような笑みを浮かべる。
「――そう」
「俺は、愛されているんだな……」
「愛してるよ」
 迷子を安心させるような口調に、俺は心をとろかせる。
 実際、俺は迷子だった。血筋と能力ゆえに当主としての責を求められ、強いられた。紅が、俺に人としての生き方を教えてくれた。
「誕生日に巳の日がかぶったこともあった」
「……やっぱりあのじいや殴っていい?」
 紅の眉間に皺が寄った。
「今はそれよりケーキが食べたい」
「――そうだよね、不愉快なことは忘れよう」
 紅はケーキの六分の一を切り出し、プレートを載せ替えて俺の眼前に置いた。紅と一緒に両手を合わせ、フォークを持った。
 行きつけのこぢんまりとした街のケーキ屋のスポンジを、俺はとても気に入っている。ふわふわの食感でありながら、しっかりとホイップクリームのトッピングを支えている。そのホイップクリームはほどよく甘く、優しい味がする。
 早く味わいたいが、あまり早食いをしてしまっては至福の時間がすぐに終わってしまう。雨水が崖を削るように、ちまちまと食べ進める俺に、紅は鳶色の瞳を優しげに細めている。
「……あぁ、君と出逢ってよかった。こんなに食べ物の贈りがいのある人はいない」
 紅の言葉には、慈愛がふんだんに含まれている。蛇神のための生贄ではなく、家系の存続のための種でもなく、人間として扱われることがこれほど嬉しいとは!
「眞言、クリームついてる」
 正面から伸びた手が、俺の唇の端を拭う。思わずその指を舌で追えば、紅は赤面した。
「そういうのは、食べ終わってシャワー浴びてからね?」
 何をしたか遅ればせながら理解し、俺も赤面する。
「より愛されたい、って思うのは間違ってはいないよ。特に今日は、君に祝われる権利のある日だし」
 確かに紅から愛を施されたい。しかし、ケーキはより長く味わいたい。
 俺は二律背反を覚えながらフォークでスポンジ生地を切り崩した。

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