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お題『仰木さんとの交際を聞かれた龍くん』

以前画像で上げたカフェの様子をnoteでも上げてみました。仰木さんのことになるとポンコツ度が増す龍くんをぜひご堪能ください。眞実耶と鴇羽の殺伐百合未満もいいものです。

お題『仰木さんとの交際を聞かれた龍くん』

 いつも通り時間差で、眞実耶ちゃんと鴇羽ちゃんがカフェに帰ってきた。いつも通り二つ離れたカウンター席に座り、少し早い夕食の半熟オムライスとサーモンのクリームスパゲッティを食べている。
 もうすぐ閉店の時間で、他のお客はいない。テーブルの上のシュガーポットや紙ナプキン立てなどを片づけにかかる僕に、オムライスを食べ終わった鴇羽ちゃんが振り返った。
「龍、仰木くんは元気?」
 飛び上がりそうになる。いきなり仰木さんのことを聞いてくるなんて……なんとかごまかさなければ。
「あぁ、うん、元気だよ。最近も事件で忙しいみたい」
「なんでそんな他人事(ひとごと)みたいなの」
「なんでって、それは仰木さんのことを僕はよく知らないし」
「つき合ってるのに?」
 鴇羽ちゃんの言葉に、僕はいよいよ硬直してしまった。そんな、莫迦な。彼女たちだけでなく、誰にもひとことも打ち明けていない。仰木さんの名誉と出世のため、隠し通しているのに。
 ぐるぐると考えを巡らす僕を指差して、鴇羽ちゃんはけらけらと笑った。
「カマかけたらやっぱり!」
「趣味悪(わる)」
 はしゃぐ鴇羽ちゃんに、眞実耶ちゃんはげんなりとした声を出す。
 カウンターの向こうで、紅さんが取りなしてくれる。
「まぁ龍くんわかりやすいからね……でも鴇羽、本人が隠したがってることを暴くのはよくないよ」
「なんで? 男同士だからって隠す方がかっこ悪いと思うけど」
「鴇羽がそう思っても、龍くんたちはそう思わないんだ。いいね?」
 決して怒ってはいない、しかし大事なことを伝えようという重々しさがある。鴇羽ちゃんはふいと横を向いた。どうも紅さんの言葉をうっとうしがっているだけのようだ。
 感謝の視線を送ったら、紅さんはひとつウインクを飛ばしてきた。魅力的な笑顔で、僕の心は楽になる。
 仰木さんが警察官である限り、僕とのことは隠さざるを得ない。それでもいい、日陰の存在だとしても仰木さんと寄り添いたい。そう思って、僕は骨ばった手を取った。
 僕は幸せなのか、幸せになれるのか。そんな疑問が浮かぶ時もある。しかし、仰木さんへの気持ちを抱えながら仕事のみの関係を保っていては幸せにはなれない。した時の後悔よりも、しなかった時の後悔の方が苦いはずだ。
「龍くん、終わったらこっちおいでよ。カフェラテ淹れるよ」
 紅さんの言葉に甘えて、僕はシュガーポットなどの載ったトレイをカウンターに置き、眞実耶ちゃんの隣に座る。
「なんでわたしと距離取るの」
「龍くんはデリカシーのない人と近づきたくないんだよね」
 僕を挟んで悪意をぶつけ合おうとする眞実耶ちゃんと鴇羽ちゃんにも、紅さんは白いカップを差し出した。
「はいはい、君たちも飲んで。つまんない喧嘩はよそでやって」
 保護者の言葉に、二人は黙ってカップを受け取る。僕はカップを傾けて、ミルク多めの甘いラテを舐める。
 甘さが舌に広がる。ふと、仰木さんに逢いたい、と思った。僕が仰木さんと甘みを脳裏で結びつけているせいかもしれない。

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