見出し画像

あなたもお洒落になれる。Moschinoメンズ、2025SS。ブエノスアイレス生まれの愉快なお洒落おじさん、Adrian Appiolazaをお手本に。

けっして「ゲゲッ、心底新しい!」とか「めちゃめちゃイケてる」とか「こんなの見たことない!」とかそんな感動はまったくないけれど。にもかかわらず、見ているとたのしく、愉快な気持ちになる。メンズファッション脱構築の教科書みたいなショウである。



クリエイティヴ・ダイレクターのエイドリアン・アピオラザAdrian Appiolazaはブエノスアイレス生まれのお洒落おじさんで、UKポストパンクミュージックが大好き。かれにはファッション・デザインの基礎があって、ドレスからカジュアルまで多彩なスタイルを組み合わせ、ユーモラスに脱構築し、その成果を見せてくれる。売りやすく着やすい、ほどよい前衛性といまっぽさ。多彩なスタイルを脱構築するユーモア。


ショウの幕開けに登場するのは、中折れ帽をかぶりタイを締め、洒落たシルエットのトレンチコートを着たハードボイルドな男である。ただし、それはこれからはじまるメンズファッション脱構築ショウのイントロに過ぎない。じっさい次に現れるのはドレスシャツに透け感のある膝丈スカートを着て黒のエナメルのパンプスを履いて、ジェンダーの揺らぎを肯定するのだ。はたまたあるモッズふうのジャケットには、仕事のタスクを書いたテキスタイルと化したポストイットがベタベタ張りつけられ、サラリーマンをおちょくっている。別のジャケットには、ペン、メモ帳、クレジットカード、IDバッジ、充電ケーブルのためのスロットがつけてあって、ビジネスマンを皮肉っている。なお、スーツが多いことも特徴的です。そうかとおもえば、旅客機を飾った麦藁帽子をかぶった女性は、ロングドレスを身に着け謎めいたツーリストを演じてみせる。メンズコレクションであるにもかかわらず女性モデルもやけに多い、なるほど、ジェンダーレスがトレンドですものね。そうかとおもえば、白のビッグTシャツ、白のハーフパンツ、白のソックス、白のスニーカー姿のスケボー青年もちゃんと登場させ、ストリートへの目くばせも忘れない。サッカーボールをモティーフにしたプリント柄も多い。スマイル・マークのプリントも多い。陳腐きわまりないものをあえてハイファッションに導入する笑いのセンスも冴えている。上半身裸でタトゥーを見せつけるビッグシルエットのパンツ姿の男の子も現れる。



ぼくは笑ってしまう。発想の素材にはすべて既視感があるし、またその脱構築の方法にしてもとくに目新しさがあるわけでもない。陳腐すれすれとさえ言えなくはない。しかし、エイドリアン・アピオラザにはファッションデザインの基礎があり、トラッドをベースにしているゆえ、シルエットにそこはかとない品格がある。だからこそ、見ているとめちゃめちゃ楽しい。たとえかれの遊び方のクオリティには達せなくとも、誰にだってできる着こなしの遊びがここにある。ぼくもひさしぶりに有楽町阪急メンズ館を覗いてみたくなった。ごめん、買う気はないけどさ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?