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Pro Toolsは録音音楽をつまらなくすることに貢献した。

なぜ、1977年~83年あたりのポストパンク~オルタナティヴはいま聴いてもエキサイティングなのか? あるいは、2000年以降レコーディングの現場では音楽を耳で聴くのではなく、パソコンのディスプレイで、目で聴き、目で音楽を仕上げる時代になってしまったことの功罪について。


ネット上でぼくとこころよく遊んでくださる音楽プロデューサー氏は、ぼくと同世代。おたがい若かった頃はいまで言うポストパンク、当時の言い方で言えばオルタナティヴ~ニューウェイヴに夢中になって、おたがい新宿(テアトル新宿の入ったビルの5階にあった)ツバキハウスで銀のホースから注がれるモスコミュールを飲んだり、怪しげな鮨をつまんだりしつつ、踊り狂ったものだ。また、当時はおたがいのことを知らなかったし、また近年はネット上の友人ゆえ、いまだぼくらはおたがいの顔も姿も声も知らない。なお、ぼくはただのリスナーであり、若いころ数年間音楽ライター~音楽雑誌編集者をもやっていたていどのこと。他方かれは後に大手レコード会社のプロデューサーになって、日本を代表するゴシック・ロック・バンドを40年にわたって手がけておられるプロ中のプロである。したがっておたがいのあいだに経験~知識格差もあればまた音楽への接し方も違う。それでも、おたがいの趣味の核心に重なるところがあるゆえ、ネット上で話が弾む。



ぼくの好きなアーティストは、シド・バレット、1982年までのブライアン・イーノ、テレヴィジョン、1980年から1983年あたりまでの坂本龍一さん、はたまたスロビンググリッスル、アートベアーズあたりではある。ただし、1977年~1983年あたりのポップミュージックシーンはやたらとおもしろかったので、ぼくはディスクユニオンお茶の水店を中心にレコードを買っては売ってを繰り返し、少しでも激動のシーンに接していたかったものだ。



いま聴いてもあの時代の音楽はエキサイティングだ。そこにはちゃんと理由があって、アナログレコーディングの円熟期であり同時にデジタルレコーディングの黎明期だったこと。次に、シンセサイザー、シーケンサー、ドラムマシンが性能を向上させ、価格が安くなっていった時代だったものの、それでもミュージシャンの多くは手奏きを捨てなかった。UKシーンにはスター・エンジニアも現れて、ヘッドフォンで聴くと、その技巧的な音響効果はリスナーを興奮させたものだった。さらにはあの時代の音楽好きはレコードプレイヤー、アンプ、スピーカーに計17~20万円くらいはカネをかけたもの。あれから幾星霜ではある。



翻って、00年以降の音楽シーンは、もちろん例外的にわくわくするバンドはいくつもあるし、ぼくはいつも新しく好きになれるバンドを探してもいる。また、ぼくは椎名林檎さんを愛してもいる。しかしながら総体的に音楽シーンはぼくにとってつまらなくなった。演奏力は格段に上がったものの、歌詞が優しさとかおもいやりとかそういうのが多く、既存の音楽のフォームを壊して刷新するようなエネジーを感じる機会がえらく少ない。けさもプロデューサー氏とそんな話になった。



かれは言った、「(いっけん)演奏力は飛躍的に上がったかに聴こえるっていうのには、実は罠があるんですよ。いまや音源はテクノロジーによっていくらでも修正が聴きますから、信用なりません。たとえば、いまやギター(6弦)のピッチの3弦だけを後で修正したりまでできちゃう世の中ですから。リズムの悪さも音程の修正もいとも簡単! 唄なんて鍵盤通りの音程に変えられちゃう。だから巧く聴こえるんです! むかしのアイドルはリアルに歌がヘタだったのがバレちゃったもの(修正限界)、しかし、いまやたとえ大音痴であろうとも超正確なヴォーカルに大変身させられる。したがってライヴで確認すると笑っちゃうほどのギャップがあることもさいさい。口パクするしかないっしょ。実は演奏力はむかしのバンドの方が高かったですよ。」



ぼくは言った、「なるほどねぇ。現実はもうそこまでいってましたか! けっきょくPro Toolsが音楽をつまらなくしたってわけですね。」



かれはうなずいた、「そうなんです!
いまやレコーディングの現場では音楽を耳で聴くのではなく、パソコンのディスプレイで、目で聴き、目で音楽を仕上げる時代になってしまった。とうぜん微妙な揺らぎや”ハズレテイテカッコイイ”が生じづらくなった。それに対してPunk/New Waveってその真逆のムーヴメントだったわけで、つくづくあの時代をリアル体験出来てよかった。わたしの音楽観もあの時代なしに語ることはできません。」そしてかれは最後に言った、「現代の音楽レコーディングは、あえて修正しない勇気こそがもっとも重要なことなのかもしれません。


thanks to 湘南の宇宙さん



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