未完成のまま鳴り響く音
俳優とヴィジュアル系ロックバンドの2つのレールを走るきみが、さらに別の音楽ユニットにも参加すると言い出したときは心底おどろきました。ただでさえ目まぐるしい日々を送っている裏側で、ひそかに三足めのわらじを用意していたなんて思ってもみなかったのです。
衝撃の発表から数週間が経ったころ、YouTubeにユニットのティザー映像が上がりました。コントラストの強いビジュアルと、いままできみが出してきたものとはまったくテイストがことなるサウンドに、わたしは湧き上がる期待とともに、一抹の不安を抱きました。
きみを含む4人のメンバーは、それぞれ秀でた特技をもっています。きみは努力でなんでもこなすオールラウンダーで、ひとりはミュージカル界を席巻する歌唱力をもち、もうひとりはダンスで日本一を獲った経歴がありました。
オーディションで決まった最後のひとりは、過去に表舞台に立った経験がいっさいなく、どれだけ調べても素性がわかりません。ただ、他の3人と肩を並べても遜色ない雰囲気をまとっていました。しかも、耳にするだけで誰も彼もをとりこにする、ウィスパーボイスの持ち主でした。
個々の能力は高いのですが、集められた4人の性質がバラバラだったのです。調和とはまるでほど遠いグループの結成に、わたしは「大丈夫なのだろうか……」と妙にハラハラしていました。張り切ってライブのチケットを4公演ぶんも取ったものの、期待はずれのステージングだったらどうしよう、なんて失望をふくんだ怖さが胸を占めていたのです。
でもそんな心配は、1曲目のイントロが流れた瞬間にはるか彼方に吹き飛んでいきました。
ただ座っているだけの観客でさえも、すこしでも気を抜くと振り落とされてしまう、そんな気迫に満ちたステージから目が離せなくなったのです。メンバーの一人ひとりが音楽に、パフォーマンスに、そして一緒に歌う仲間たちに本気でぶつかり、火花を散らしていました。
なにより、一日に2つの公演を難なくこなすきみがアンコールで足をふらつかせたとき、ひとつのライブごとに全力を出し切っているのだと悟りました。
公演で披露された曲はどれも素晴らしいものでしたが、中でも「鳴音」という、1曲に4曲分のメロディを詰め込んだ、とっておきのおもちゃ箱のような曲に一気に飲み込まれてしまいました。
エレクトリックな音が流れ、バラード調の曲が始まります。かと思えばラップパートに切り替わり、これはスロウな曲調なのか……と理解したところでごりごりのギターサウンドが乱入してきて、ロックな雰囲気に変わりました。サビはいまどきのJ-POPになり、Cメロではきみのシャウトが響きます。寄せては返す音の洪水に、頭がはちきれそうでした。
ですがそれ以上に、サビで歌い上げる歌詞が、耳の奥に突き刺さったのです。
「ひび割れた 夢集め ひずみに乗せて共に叫べ」
「汚くて美しいエコー 未完成のままに唄え」
4人が生み出す旋律は、音圧もピッチも別物で、すこしでもずれると成り立たなくなる代物でした。でもなぜか、そのずれさえも持ち味として、わたしの耳にするりと入ってきます。そしてそれを体現するようなフレーズに、向こうから出会わせてくれたのです。
終演後は「この人たちはわたしの知らない新しい世界を見せてくれそう」なんて予感に包まれて、興奮でまだ震える足を引きずりながら会場を出たのを覚えています。
あふれ出る気持ちをどこかにぶつけたくて「何年経ってもわくわくを感じさせてくれるきみってすごいなあ」なんて幼稚な感想を、ホテルのメモパッドに書き付けていました。当時の熱が未だに残る殴り書きの文章は、いまも手帳に挟めています。
「日本の和の文化を表現する」「1曲1曲が歌劇のようなパフォーマンスを行う」ことをコンセプトとしたこの集団には「ZIPANG OPERA」と名がついています。歌あり、踊りあり、殺陣あり、振りコピあり、わたしは彼らのステージングを「観るアトラクション」だと感じました。舞台の上で繰り広げられる、演劇とライブが融合して生まれた新たなエンターテイメントは、観客を歓喜の渦に巻き込んでくれるのです。
きみがいなかったら、このユニットは小ぎれいにまとまっていたと思います。すくなくとも、ここまでの熱量は感じなかったでしょう。
自分の癖のある声を「砂利を食ったような声」ときみはよく言います。しかし、喉からあの独特の倍音を出せるきみがここにいたからこそ、不完全で美しい響きを奏で、いびつながらも不思議と凹凸が噛み合うパフォーマンスグループとして完成したのです。
願わくば、ZIPANG OPERAがいつか世界に名を轟かす、大きなユニットにならんことを。
ここまで読んでくださってありがとうございます!もしあなたの心に刺さった文章があれば、コメントで教えてもらえるとうれしいです。喜びでわたしが飛び跳ねます。・*・:≡( ε:)