かつてあじわったことのない深甚な恐怖感が鳥をとらえた。
大江健三郎は、人間の最も低俗な負の感情(恥や恐れ、後悔)を言語化する天才である。
彼は陋劣で下賤な感情を、様々な方法によって形容、比喩する。
其れは恰も幻想的で、詩的に映るが、絶妙にリアルで写実的である。
誰しもが数千度数万度と抱いた感情を読者に喚起させ、読者は共感性羞恥の虜となる。
そんな大江健三郎の作品と出会ったのはそう昔ではない。
1年前。属したばかりの仕事場に慣れず、辟易していた私を見兼ねた上司が飲みに誘ってくれたのがきっかけだった。場末の安居酒屋で二人対峙する中、発