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『幸せの味』
ジャンル▷3本話(3つの言葉から物語を想像したの)
キーワード▷そっぽ/しっぽ/小瓶
紅葉色に染まった空の下。
草むらで寝転んでいた少女は、ゆっくりと起き上がって、ポケットからひとつの小瓶を取り出しました。
金平糖が入った瓶は動かすたびに小さな星々がビンとぶつかり、カラカラと高い音を立てています。
「まるで楽器みたい」
少女は笑いました。
少女の隣にいた狼はふんっと鼻を鳴らして言いました。
「お気楽なもんだ、俺に喰われるかもしれないのに」
「あら、そう?狼さんもいかが?きっと幸せになれるはずよ」
少女は金平糖をふた粒とって、オオカミの口と自分の口の中に入れました。
「うん、美味しい。甘いって幸せの味よね。それに、こうして誰かと一緒に食べるともっと幸せ」
「…そうかい、俺には分かんないね」
狼さんはそっぽを向いて知らん顔。
本当は、ちょっとあたたかい気持ちになったのを、少女には知られたくなかったのです。
でも、狼さんは自分のしっぽが自然とぱたぱたと小さく動いていることに気づいていません。
少女は後ろを向いている狼さんをみて気づかれないように小さく笑いました。そして、金平糖をもう一粒手に取って狼さんの顔を覗き込みます。
「はい、おかわりどうぞ」
「どうも」
くすくすと笑う少女に狼は更に不機嫌そうにそっぽを向いて、今度は手のひらを突き出してきます。
少女は金平糖を優しく狼さんの手の上にそっと置きました。
「あら」
黒い肉球の上に置かれた一粒の金平糖。
少女には、それが真っ黒な空に浮かぶ星のように見えました。狼さんと出会った日の空で一際大きく輝いていた1番星にそっくりです。
少女は小さく笑い、狼さんのしっぽに抱きつきました。
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