ステインレス

私の愛すべき友人達には武勇伝のように認識されている私の結婚だが、元はといえば「基本的にルーズで腰が重いくせに軽佻浮薄で、大事な事を先送りにしてしまい直前にバタバタする」悪癖ゆえに、「結婚したい人がいます」から何の進展の話もせず半年くらいたってからの一報が「一週間後に嫁ぎに行きますわ」だったので、「えっ?? あと一週間で引っ越しするの……?」と不穏な空気をまき散らしてしまったせいである。

今思い出してもすみません。

ちょっとはマシな人間になった気がしていたけどそんなことはないです(現状報告)。


結婚してよかったことの一つが、すんごい褒められるという事。

「基本的にルーズで腰が重いくせに軽佻浮薄で、大事な事を先送りにしてしまい直前にバタバタする」、多分殆どの人には悪い事に映る癖だけど、夫に言わせると、ルーズな点は「好きな事を全力で出来ていい」、腰が重いのは「合理的な考え方をしているから」、軽佻浮薄なのは「楽しい事に対する嗅覚がある」、直前でバタつくことは「6割出来てりゃいい、8割あれば上出来」と、フォローがすごい。……最後はちょっと厳しいか。

私はその辺に落ちてたダイヤより大事な人にもらったガラスの方がいいという価値観で生きている人間だ。

それで、そうではない多数派の人とは折り合いが悪く、頓珍漢な事を発言しては場の空気を壊すことが多かったので、人と関わる事を本当に苦手にしていたのだけど、夫は「その発想はクリエイターに必要不可欠のものだから、絶対失くしちゃいけない」と全推ししてくれるので、こんな私を遠慮なく受け入れてくれる友人以外に対しても、自分の考えを言葉にするという事が苦手ではなくなった。

まるで石一つですべてひっくり返るオセロのよう。詩的な表現をしてみたが、本当にそう思う。


私は「結婚する相手に贈るものは、相手に何を求めるのか」を表す指標だと思っていて、アクセサリーを贈るよな人はまず伴侶の勘案に入れてなかった(ウエメセなこと言ってるけど男性にそんなものをもらった事はない)。

私は「色えんぴつ」だ。色鉛筆をくれる人が理想の相手だった。私が普通の主婦業に従事させられるとしても、絵を描くことを否定しないでくれる人がよかった。

ある日「そういえば、目について買っちゃったんだけどよく考えたら私は使わないので、貴方いりますか?」とメッセが飛んできた。「はい」と答えたら無印の色鉛筆36色入り(紙ケース)が送られてきた。

こんな人がいるんだ、と思った。

本人は「そんな重要な意味じゃなくて、使わないから捨てるよりは使う人にあげた方がいいと思った」だけなんだそうだが、そもそも夫は仕事柄絵描きの知り合いが多い人だったので、その中で私にくれてやろうと思った時点で運命だったと思う。

それから二度会いに来て、二度目で「貴方はいらないかもしれないけど、世間一般の形として」指輪をもらった。ただし、私の指のサイズがぼんやりとしかわからないので、と、近いサイズのものを4つ用意して来ていた。プラチナ製で、ちょっと豪華な指輪が1つ、シンプルだけどダイヤが付いた指輪が2つ、飾りのないシンプルなものが1つ。

飾りのない指輪が見事にジャストサイズだった。

普段使いにいっかーと思ってつけていたんだけど、ある日友人に見せたら「これステンレスって書いてあるけど」と言われてあれっ?となった。

帰宅して確かめてみた。全部プラチナ製だよと言われていたのに、この一つだけステンレス製だった。よりにもよって。これ一個だけ。

めちゃくちゃ笑った。いやはや、私におあつらえむきの一品だと思った。だからますます愛着がわいた。粗忽な私にはステンレスくらいがちょうどいい。

ちなみにこの指輪一回失くした事があって、半泣きで謝ったら「また買ってあげる楽しみが増えるだけだから気にしないでいい」と、これまた随分どこの国の王子様ですかと思うようなことを言われたので、惚れ直すとかではないが末永く可愛がろうと思った。

という事を笑い話としてtwitterに投稿したら、「ステンレスはステイン=錆び、汚れ レス=ない という意味だから、錆びない愛という意味の立派な贈り物じゃないですか」とリプライを頂いた。

えっ何それ素敵。

ネタに使いたいと思ったらイニDでのエピソードだったらしい。惜しかった。

作業するときにどうしても邪魔なので普段は外しているけど、机の見える所に仕舞っている。

私を「よし」と思ってくれている人のために、愛だけでなく全身全霊、錆びない自分でいたいと指輪を見るたび思う。「貴方はいらないかもしれないけど、」と前置きしつつももらったものだけど、見るたびにたくさんの思い出が増えていく。大切な意味がついていく。

そんな大事なものを、贈ってくれる人がいた。もらえてよかった。


※【注意】この記事はノロケです。のろけ話にあなたの人生においてとても貴重な数分という時間をとられる可能性があります。

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