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月の光のエトセトラ

私は元々思ったことを文章にするのがあまり得意ではないのだけど、先にnoteを始めた友人に勧められおだてられたので、立つときについ「よっこらせ」と口をついちゃうような気軽さで特に何の役にも立たない事を書き連ねていこうと思う。

その友人に、昔私が書いた「月のお酒の話を覚えているよ」、と言われてふと思い出した話。

私は普段マンガ描き(仕事としては一本しか描いていないのでマンガ家というと語弊がある)をしているのだけど、学生時代には文章が苦手なくせに文芸部にいたので、月に一度発行する部誌に何がしか駄文を載せることになっていて、そこに寄稿した作品の一つが月のお酒の話。

地元の図書館はけっこうライトノベルを揃えている所で、いくつか楽しみにしていたシリーズがあるのだけども、そのうちの一つにある日新刊が入っていたので喜んで手に取った本が「ムーン・シャイン」というタイトルで。

その本で、「ムーンシャイン」には月の光の本来の意味とは別に「密造酒」という意味がある事を知って、なんとなーくモニョモニョと辻褄を合わせて作った小話を提出したのだけど、普段私の作品に対してのリアクションはほとんどない所を、「月の光の話、なんだか不思議な雰囲気の話だね」とか「なんとなく印象に残った」といった感想が寄せられたので、ちょっと気を良くしたのと同時に、タイトルに使った言葉自身のもつ力に助けられたなぁと思った、私自身にとっても思い出深い一遍だ。

ムーンシャインという言葉に反応する程度には天文や宇宙が好きなのだけど(ただ最近発覚したんだけど天空にびっしりと貼り付いた星空は苦手で恐い)、文学界でもそういった題材を扱うのが好きな作家さんがいて、とくに有名なのが宮沢賢治だと思うんだけど、もう一人稲垣足穂という方がいる。

多分稲垣足穂の一番有名な著作はその名も悩ましい「少年愛の美学」だろうけど、星や月、宇宙を扱った小作品群もあって、非常にメルヘンで可愛らしく美しい話が多く、その中でも特筆して大大大好きなのが「一千一秒物語」というタイトルの、何だろう……もしかして詩? 非常に散文的な、たった2行しかない詩のようなものもある小説がいっぱい入った本で、「この本大好きなんですよ~」と誰に言っても共感が得られない(まず知ってる人からしていない)一冊。

この本、車が運転できるようになって真っ先に探しに行った本で、まだ小学生の頃に「今日はこの本読みたいなシリーズ」という複数作者の作品をオムニバス収録した本を読み、その中にあった一千一秒物語の「ある夜倉庫のかげで聞いた話」「月とシガレット」「ポケットの中の月」の3本が、もうタイトルからして大っ好きでずっと忘れられなかった作品だったので、買ってすぐ夢中で読んだんだけども、最後に収録されている話のタイトルが「A MOONSHINE」でとんでもなくびっくりした。

衒学的でコスミックな作風の著者が食いつかない筈はないなというタイトルなんだけども、それがまた、私が書いたムーンシャインとだいぶ似通ったお話で。

というのも、やっぱりこれはタイトルにひっかけた話だからなんだけど、「月の光」「ルナティック」「密造酒」の意味を知っているとこういった感じの話になるのかなぁと、好きな作者と似た感性を持っていることをうれしく思ったり、でもこれ知らん人から見たら稲垣足穂のパクりって言われたりしないかなと余計な心配をしたりした。

その後マンガ家になるための一環として物語の構造や分解の仕方等を学んだりしたのだけど、その上で再読すると実はそんなに似てもいなくて、しかも私、割といい出来の話作れてんじゃんと自画自賛をしてみたりなどしていて、ここは一つ本業のマンガにて再度描き起こしをしてみたく思っている作品の一つだったりしている。

昔描いてた文章は、密室劇のセリフ主体で構成していた話で、これをこのままマンガにしてもそれはそれで同人的な、味がある話になるんじゃないかとも思うんだけど、別口として、話の内容にそぐう時代設定やキャラ付けをして「普通の人も読めそうなマンガ」にしてみるのも、ちょっと腕が上がったところを見せれていいんじゃない?と、どちらで描こうか迷ったりしている。

でも迷うくらいならどっちも描けばいいよね。

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