夏のフェア本短編+ランキング

by 柴本和己
1位 午後の恐竜(星新一)新潮文庫
2位 追想五断章(米澤穂信)集英社文庫
3位 きのうの影踏み(辻村深月)角川文庫
番外編 ミステリーナイト プレイブック Murder Mystery Table

ランキングの趣旨
昨夏の読書を振り返るため.夏フェア対象本が角川,集英,新潮文庫の各社で多すぎるため短編集1つずつに絞った.

1位 午後の恐竜(星新一)新潮文庫
星新一の有名作品を復刻した特別装丁版の短編集.装丁に負けず劣らず珠玉の短編が詰まっている.タイトルになっている「午後の恐竜」は星新一らしい反戦の短編であり,物語内の不可解な現象から漂う漠然とした不安が秀逸.他の短編も充実しており一冊で様々な趣向を楽しめる.一位にランク入りしたのは内容だけでなく装丁の美しさがあったため.新潮文庫は毎年の夏のフェアで星新一の短編を一冊特別装丁で売り出すため,個人的な期待の高さと満足感から他を退けた.他の特別装丁の本は購入のみで積まれているため今夏の新潮文庫を代表する作としてこの本を推した.うちわ型しおりの使い勝手はまあまあというところ.

2位 追想五断章(米澤穂信)集英社文庫
本作は純粋な短編集ではないが,結末を欠いた5つの物語をうまく利用した作品であり強く記憶に残っていたため今夏の集英社文庫代表とした.作品全体としては遺作の謎を解く過程でリドルストーリーはリドルストーリーでなくてはならなかったのか,という部分がすばらしい.各短編はリドルストーリーとして工夫がされており,内部装置でありながら作品群から漂う暗がりは後の「満願」を想わせる.「追想五断章」を読んでいたか否かで「満願」に対する評価が変動しそうだとさえ考えている.ねこじゃらしおりは使い勝手が良い.

3位 きのうの影踏み(辻村深月)角川文庫
ホラーな短編集である.作品内では怪奇な出来事が起こるがその点はホラーではない(いや,現象自体がホラーなお話もあった気がするが).その怪奇のなかでの人間の思考,行動こそがホラーであることを提示する完成された一冊.販促用冊子に書かれていた漫画を装丁に用いた特別カバー版も出された.表題作のきのうの影踏みに心を掴まれ今夏の角川文庫代表とした.角フェスのブックカバーは毎年もらうだけもらって使用しないのでたまりつつある.

番外編 ミステリーナイト プレイブック Murder Mystery Table
夏の探偵頂上決戦であろうミステリーナイトからプレイブックが登場した.一人で楽しみ推理力を磨くもよし,TRPGの一種として集団で楽しむもよしの推理愛好家諸君,探偵諸兄ら垂涎の一冊.

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