長篇漫画ランキング(白)

長篇漫画ランキング(白 2019.11.23)
1位 羊のうた(冬目景)
2位 ハンターハンター(冨樫義博)
3位 アンダーカレント(豊田徹也)
4位 沈黙の艦隊(かわぐちかいじ)


1位 羊のうた(冬目景)
 幼い頃に母親を亡くした高城一砂は、父親の友人である江田夫妻に預けられて以来、父親に会うことなく育ち高校生になった今では正式に江田夫妻の養子になるという話も出ていた。
 そんなある日、一砂は同級生の八重樫葉の腕についた血を見たことをきっかけに何かの発作を起こしてしまう。ふと、かつて両親と暮らしていた家を訪れると、そこに実の姉である高城千砂が住んでいた―――――。
吸血鬼のように発作的に他人の血が欲しくなる高城家の「病」のこと、千砂自身もその病に冒されており発作を抑える薬を服用しているが、生まれつき弱い心臓がさらに弱っていっていること、一砂もどうやらその病を発症してしまったこと。
 同じ病に苦しみ、自殺した父親の面影を追い求め他人を遠ざけて生きる千砂と、大切な人たちを守るため他人を遠ざけようとする一砂の2人は世間から遠ざかろうと、江田夫妻や八重樫は離れていく一砂に近づこうと試みる。
どうしようもなく弱っていく千砂、急速に遠ざかる一砂に戸惑う江田夫妻、どうすればよいのか悩む一砂。それぞれが悩み、想い、選び選ばなかった過程と結果とその先を、思うままに感じて読んでもらえたらと思います。

2位 ハンターハンター(冨樫義博)
 この作品、何を紹介すればいいんだ。要素がありすぎる上に生半可なことを言うのは怖すぎるぞ。何回読んでも発見があるし飽きないし、なぜこの作品を大人になるまで読んでなかったのか……。
 超有名作品だし長いし、あらすじとかはもうWikipediaとかまとめサイトとかいろんなところにあるだろうからまずは電子書籍とかの無料で読めるときにでも読んでもらってそのままドはまりしてもらえればいいと思います。
基本は能力系バトル漫画なので、主人公たちの成長していく姿が楽しみたい向きにはこの漫画はとてもハマれると思います。個人的な推しはクラピカ。冷静沈着にみえてその実突っ走りやすいクラピカが仲間を信じれるようになっていく過程は愛おしさすらありますね……。

3位 アンダーカレント(豊田徹也)
 蒼い水底に静かに横たわるかのような主人公(関口かなえ)の絵の表紙が非常に印象的。
タイトルの"undercurrent"について、冒頭に下記エピグラフが載っている。
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1 下層の水流、底流。
2 ((表面の思想や感情と矛盾する))暗流
「講談社 英和中辞典」
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 本作はかなえが旦那が突如蒸発したため閉めていた銭湯を久しぶりに営業再開するところから始まる。銭湯の組合から派遣された堀さん(男)や失踪した旦那の捜索を依頼した探偵の山崎とのやりとり、また、近所の住人との暮らしの中で、「気の強い嫁」であるかなえの抱えてきた【アンダーカレント】が静かに描き出されていく。ひとつ、描き出し方の軸を挙げるとしたら山崎の言葉の、「人をわかるってどういうことですか?」になるだろうか。
 本作の絵は基本的にはかなり写実的なのだけど、そこに漫画的な音の表現や多少コミカルな表情が入る。これによりシリアスに偏りすぎないというか、重くなりすぎず、その上時折のコミカルさがふだんの静謐さをかえって強くしている気がする。僕はこの漫画を読んでいると、音楽のうるさくない映画を観ているような気分になる。シーンの切り替わり方なんかまさに映画のよう。
 いろいろ考えこんでしまって眠れないような夜があったら、コーヒーでも淹れて、少し夜更かしして読むのにいいかもしれない。そして気に入ってもらえたら、作者の豊田徹也は非常に寡作であるが、「珈琲時間」という短篇集があってこちらもおすすめ。

4位 沈黙の艦隊(かわぐちかいじ)
 タイトルの「沈黙の艦隊」とは、「潜水艦戦力」を意味する英語の「Silent Service」を指す。日米協力のもと秘密裡に建造された原子力潜水艦の艦長に任命された海江田四郎が、処女航海で米原潜部隊より逃亡、その後戦闘国家「やまと」の独立を宣言し、海江田の思想を体現すべく、各国と戦いを繰り広げていくこととなる。
 これはひとつの思考実験であり平和への闘いであるが、それにしても圧倒されるのは各登場人物の生命と、それを支えるかわぐちかいじの絵だ。
潜水艦同士や戦艦、戦闘機などとの戦闘描写、双方の搭乗員の表情、心理戦。息つまりページをめくる手がどんどん早くなっていってしまう。
政治面での闘い(これはまさに闘いだ)も非常に多く、日米首脳を中心に描かれている。
 これは1988年から1996年に描かれた漫画であり現在とは状況なども異なるが、今読んでも「古くない」漫画である。ネット環境の関係もあり、「自分に都合のよい情報」のみを選びがちになってしまう環境の昨今、特に日本においてはいわゆる「右」「左」でネット上でそれぞれで固まっている光景をよく目にするが、どちらにも、いや誰にでも読んでもらい、少し目を広げてもらえる契機になってもらえる作品であると思います。

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