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パレットクラブ日記 第13回・新潮社装幀部 黒田貴先生の授業

※パレットクラブスクール「イラストコース」(23期)の授業内容の備忘録です。過去の授業内容はこちら

スクール第13回の講師は、新潮社装幀部の部長、黒田貴さん。
新潮社で装幀にイラストを使うのは、おもに小説とエッセイとのこと。今回は課題はなかったが、宿題として、1)大きな書店で文芸とエッセイの本の表紙を見て、これは売れていそうだと思うものを覚えてくること、2)将来自分が仕事をしてみたい本や雑誌のジャンルを選び、そこで使ってもらえそうなイラストを選んでファイリングしてくること、の2つが出された。

課題は出ていないとはいえ、これまで本の表紙に耐えるような作品を描けていない床山。数多のイラストを相手に目を鍛えられてきた先生にお見せできるファイルを整えられるか、ちょっと緊張である。ファイルの内容は、また後ほど。

黒田先生の授業

初めに、最新の本の売れ行きランキングの紹介があった。国内の書籍の5%を売り上げるという、紀伊國屋書店の11月27日の売り上げデータから。

見てみると、文芸書の割合はすごく少なく、10冊に1冊という感じだった。さらにその中でもラノベの割合が高いので、文芸書で絵師ではないイラストレーターの活躍できる場は、かなり限られるのではないかと思われる。

さらに、装幀に使われるのは 1)イラスト(依頼で描かれたもの)、2)ありものの絵画、3)写真、の3種類。純文学の分野では絵画が使われることが多いそう。そして、最近はデザインのしやすさから写真を使った装幀も多くなったという。イラストレーターは、画家や写真家とも戦わなければならないのか……。かなり過酷な戦場だ。

とはいえ、イラストは装幀に使われている。実際、書店でもイラストが表紙の本はよく目についた。事前に偵察した複数の書店では、瀬尾まいこさんの新刊『夜明けのすべて』が一番目立っていると感じた。青と黄色のコントラストが目を引く、装幀は大久保明子さん。しかし、瀬尾まいこさんの本で比較すると、売れているのは本屋大賞を受賞した『そして、バトンは渡された』の方だった。

黒田先生によれば、文芸書(とくに単行本)を買うのは本好きな人なので、目を引くデザインの本が必ずしも売れるわけではないという。イラストやデザインは、本の魅力を少し底上げするという立ち位置。イラストが理由で売れることはないとのことなので、少し肩の荷が軽くなる気はするが、それでも本の印象を左右することには変わりがない(ジャケ買いする人も、たまにはいるだろうし)。参入するにはかなり覚悟が必要そうだ。

ファイル講評

次に、受講生それぞれのファイルを見ていただけることになった。

床山が整えたファイルの内容はこちら。

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(A)実際の本に装画を描くとしたら……と考えて描いたもの。阿部直美さんのエッセイ『おべんとうの時間がきらいだった』の表紙イメージ。実際は写真が使われているが、イラストも悪くないんじゃないかしらと思う。


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(B)色数を2〜3色に絞り、一筆描きを取り入れたイラスト。線画はアナログで、着彩はデジタルだ。シンプルで強い線を生かしたイラストは、方向性の1つとして考えている。


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(C)こちらも色数は2色で、ややリアル寄りにしたイラスト。右は北村人先生の課題で描いたもの、左は描き下ろしだ。女性のエッセイ本の表紙などに使えないかと考えている。


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(D)色数は3色、面で描いたイラスト。今のところこれ1点しかないのでお試しという感じだ。ジャンルは恋愛がテーマのエッセイか、小説か。


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(E)Instagramにアップしているガールズイラスト。漫画風。雑誌掲載を目標に描きためている。

見事にタッチがバラバラだが、これでも絞れてきた方なんです……。
黒田先生のコメントは、以下の通り。

・(A)(B)顔が怖い。面白さを残しつつ、もうちょっと(親しみやすくできないか?)。
・(A)は、まぁアリだと思う。ただ、これをたくさん描いてきた人の絵ならいいが、初めからこの絵を出されると頼みにくいかも?
・(C)左の女性の目の描き方がいい。横顔の形がとれている。線の途中で色が変わるイラストに可能性を感じる。デザイン的で面白い。切れている部分の先を意識して描いた方がいい。

(A)と(B)は身近な人の評価はけっこうよかったのだが、顔が怖いと指摘されてしまった。先生には(C)の2枚をいちばん見ていただけていたように思う。(A)&(B)と(C)の中間ぐらいのタッチで描いてみてもいいかもしれない。またいろいろ描いてみよう。

(D)、(E)についてはとくにコメントはなかったが、おそらくこういう絵を目指しているイラストレーターの層は厚いので、相当上手くならないと太刀打ちできないということかもしれない。


全体の講評を通して、先生が強くおっしゃっていたこと。

最近は絵師さんの活躍が目覚ましい。トップ絵師と言われる人はものすごく上手いし、それはそれはたくさん描いている。ガツガツ描きまくらないと戦えない。その絵師さんたちに比べると、イラストレーションの世界はパワー不足だと感じる。とにかくたくさん描いて欲しい。漫然と描くのではなく、表現を工夫しながら。たくさん描いて、描き飽きた頃に突破口が見えることもある。

イラスト業界のパワー不足というのは、装幀を担当されているからこそ見えることなのだと思う。とにかく、描く。話はそれからだ。

いつか、新潮社の装幀部にもファイルをお送りできる日が来るといいなと思いつつ。描いて、描いて、描きまくります!



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