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パレットクラブ日記 第12回・大原大次郎先生のワークショップ

※パレットクラブスクール「イラストコース」(23期)の授業内容の備忘録です。過去の授業内容はこちら

スクール第12回の講師は、グラフィックデザイナーの大原大次郎先生。事前に実技だとは聞いていたが、持ち物が「筆記用具」。画材、ではなく筆記用具……。あえてそう指定されているのには、何か理由があるのだろう。
鉛筆とマルマンのクロッキー帳(100%ORANGEの及川さんが使っていると聞いてソッコー買ったもの)を手に、築地へ向かった。

イラストと身体性

大原先生の授業は、ワークショップ形式だった。
手始めに、体の重心を確認する動作からスタート。片足で目をつぶって立ち、重心の移動する様子を感じとる。
次に、手持ちの紙をくしゃっと丸めて、少し離れた位置にある先生のバッグへ投げ入れる動作。遠くにいる人ほど、全身を使って投げることになる。

大原先生はイラストを描くときの身体性のようなものを大切にされていて、描くときには手先だけで描くのではなく、腰から下、足の影響を意識するようにとおっしゃっていた。
学生時代、歌をうたうときにも、ボールを遠くに投げるようにうたえと指導されたことがある。そうすると、会場の奥に座っている人まで歌の内容が届くからだ。
イラストとそれを見る人の距離感を考えるのは大切なことだが、全身を意識して描いたイラストというのは、見る人に対して刺さる深度が違ってくるものなのかもしれない。すごく興味深い。

また、イラストレーターの作家性を語るときに「個性」や「センス」を挙げるのはNGだと先生はいう。そんなことを聞くのは初めてだ。それよりも、作品を作る時の「体の使い方」「姿勢」「心持ち」「時間の使い方」……といったことで差が出るのだとお話されていた。これもすごく面白い考え方。

確かに、背中を丸めてコマコマと描いていては、イラストも縮こまったものになってしまうのかもしれない。体の使い方を含めて自分の癖を知り、より良い状態で絵を描くこと。心がけたいと思う。


見方の癖を知る

次に、写真を見て何が写っているかをどんどん言っていくワーク。脳は見えている全てのものを認識しているのではなく、取捨選択(フレーミング)して知覚しているとのことで、ものの見方にも自分の癖が出るのだという。

提示されたのは、黒と白のフレンチブルドッグが草原を跳ねている写真。そこに何が写っているかを言ったあと、1分程度でスケッチすることになった。

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どことなく赤塚不二夫感……。短時間で描くことを迫られると、見方の癖・描き方の癖がよりあらわれやすくなるのだと思う。

実際には見えているのに、脳が「見えていない」ことにしてしまっているものが、意外にたくさんある。「どんどん言う」ワークは、ものの見方を多面的にし、頭を柔らかくする活動として、気分転換に取り入れてみたいと思った。


「変えて」描く

作品づくりで行き詰まったようなときには、いつもと違うことをしてみるといい、と先生。

1)方法を変える(一筆がきで描く)

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飯田淳先生の回でもやった、一筆がき(これ、好きなやつ)。自分の形の捉え方がダイレクトにわかる。利き手と反対の手で描いたりするのもいいそう。


2)道具を変える(定規で描く)

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時間切れで中途半端だが、左の犬にやっぱり赤塚感(動物をキャラクターっぽく捉える癖がある?)。いろいろな制約の中で自分がどう描くのかを知っておくのは、仕事をする上でも大切なんじゃないかと思う。


3)環境を変える

転地して旅行先で描く、カフェにスケッチブックや iPad を持ち込んで描くなど。


言語化する(共通言語をつくる)

ここで再び「どんどん言う」ワーク。今度は絵を見て、何が描かれているかを言っていく。今回はやらなかったが、15分ほどかけて、絵を見ていない相手に何が描かれているかを伝え、相手にイラスト化してもらうというワークもあるという。
実際に描かれた例を見せてもらうと、同じ絵について描いたはずなのに、一つとして同じものはなかった。その差は描き手の個性の違いによるものではなく、組んだ相手との言葉のやりとりの違いによるもの。

制作する上で、イラストレーターはどうしても自己完結しがちだが、実際の仕事はチームでの協働作業。組んだ相手との言葉のやりとりが、出来上がりに反映されるので、仕事をする上ではチーム内の共通言語を作るのが大切だ。

と、先生。コミュニケーションを十分に重ねることが成果物の質を高めうるということ、心しておきたい。


時間の影響を考える

人は何かを見たときに、7〜10秒ぐらいの間で「かっこいい」「可愛い」などと判断できるそう。第一印象、パッと見たときに何を感じるかがとても大切だ、と先生は言う。第一印象で自分がどう捉えているか。また、他人からはどう捉えられているか。

ここで、それぞれの受講生のイラストを順番に10秒間で描いていくワークが挟まれた。模写ではなく、描いた人の空気感をなぞって描くというもの。10秒間ではほとんど何も描けないに近かったが、それでも元のイラストの特徴が浮き彫りになる結果になった。

Sさんの絵を10秒間で描いたもの

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丸い頭の形と、幼児らしいしゃがみ方が可愛い。手足の位置関係が、自分にはない描き方で楽しかった。

全員の絵を描き終わった時点で「おかわりタイム」。気になった人のイラストを、今度は3分間かけて描くことに。Sさんの絵をもう一度描いた。

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10秒間では気づかなかったが、口があんなところについていた! 斬新すぎて認識できなかったのかも。服のアップリケが可愛いし、ありの隊列や歩いている鳥の足の曲がり方も楽しい。

自分が感じたことを意識できるということは、制作する上で「今何をしているかをわかって描く」ことに繋がると思う。一方、元のイラストを描いた人には、それを写した人が何を感じとったかがつぶさにわかる。
時間を区切って絵を写しとるのは、元の絵を描いた人、写した人両方に刺激のある活動だった。


終わりに

大原先生の授業は、イラストレーターの先生方とはまったく違った視点で、何もかもが新鮮だった。
授業後に作品を見ていただいたときにも、先生は「タッチは早く決めなくてもいい」「いろいろなタッチがあっていい」と、他の先生とは違うことをおっしゃっていた。
個性よりも心の持ち方の方が大切だということ。組む相手によって絵は変わるということ。私にとっては希望が持てるのと同時に、絵に取り組む気持ちを新たにさせられる考え方だった。イラストは人と協働して作り上げることを前提に考えた方がいい、と強調されていたのが心に残った。

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