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芹沢怜司怪談蔵書まとめ

連載していたホラー小説のまとめです。

芹沢怜司の怪談蔵書 「1.拾ったベルト」

 私――芹沢怜司は子供の頃から怪談の虜だ。  隙間風を全身に浴び、身を震わせながら読む恐ろしい話はなんとも心地が良い。この家を譲ってくれた親友に感謝しないとな。夏になったら和菓子を持っていってやろう。きっと喜ぶ。  さて、私がいる部屋にはたくさんの蔵書が眠っている。もちろんどれも怪談本だ。今からその中の一つを読み上げよう。 【拾ったベルト】  装着した者を死ぬまで絞めつけるベルトを知っていますか?  異様な死体の発見者は犬の散歩をしていた女性。愛犬が長らく放置されてい

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芹沢怜司の怪談蔵書「2.揺れない旗」

 散歩していると道に手袋や長靴などが落ちていることがある。どうしてこんなところに落ちてるんだ? 落とし主は困らないのか? と考えてしまう。親切心で拾いはしないが。  私は誰の物か不明な落とし物には触れないようにしている。目の前を歩いている人が落としたら拾って渡すが、何が憑いているか分からない代物を触るのは遠慮したいのだ。  しかし外で気を付けなければならない物は落とし物だけではない。長らくそこにあるもの……例えば電柱、看板、そして交通安全の旗。  交通安全の旗にまつわる

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芹沢怜司の怪談蔵書「3.傘を持つ赤子」

 先ほど話した交通安全の旗に出てきた若者なんだが、実は私の知人でね。類は友を呼ぶってやつで彼も怪談マニアなんだ。  私と彼の違いは怪談に対するスタンスだ。私は基本的に触れない・近寄らない・すぐ逃げるを信条にしている。彼は真逆でね……危険なものであっても躊躇いなく突っ込んでいく。怪談の真相が判明する場合もあるから悪いことばかりではないが、少しは肝を冷やす私の身にもなってほしい。  そんな危なっかしい知人はとある怪談の調査のため旅行をしている。今頃飛行機に乗っているんじゃないか

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芹沢怜司の怪談蔵書「4.溺れ手招く」

「もしもし。ああそう……赤子のやつ本物だったんだ。実際にお目にかかった感想は? 怖かった? それだけかい……いや、君にまともな感想を期待した私が悪かったよ」  知人は無事に傘を持つ赤子を目撃できたようだ。電話越しから興奮が伝わってくる。何百年経っても、足を踏み入れる人がいなくなっても、赤子はずっとあそこにいる。 「赤子の正体は分かったのかい? そう、母親を待っているねぇ……。傘は母親の物? そうかそうか報告ありがとう。十分な成果だよ。それよりも立ち入り禁止の場所に入ったん

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