すずのね

煌めく鈴の音のような、あるいは穏やかなせせらぎのような、そんな人であれたら

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【小説】 舞い落ちる蝉

蝉は落ち葉だった。 塾の帰り、人もまばらな夜道を歩いていた。空気が地縛霊みたいに重くまとわりついてくる。数メートル先で信号が青になったのが見えた。渡らなくちゃ、早く渡らなくちゃと足を速めて、前を向いて進もう、みたいな歌詞がイヤホンから聞こえていて、そして。 シャク。 あ、と思った。地縛霊にしがみつかれて身体がすっと冷えた。心の肌が栗立った。青信号だけがピカピカと光って見えた。信号をどうにか渡り切ってもなお、何かに追われているような焦燥に駆られて、足は止まらなかった。早く

    • 【エッセイ】 蝉時雨

      半開きの窓の外から、雨の音が聞こえてきた。柔らかくさざめくその音は、早朝でまだ目の覚めきっていないぼんやりとした私の頭の中に鮮烈に響いた。夏期講習は二日目に入っていた。英文法を解説している講師の声が次第にBGMに変わっていき、いつしか私は心地良い雨の音に耳を傾けていた。しかし、はたと思いあたる。今日、雨の予報など出ていただろうか。天気予報は見たけれど、鞄に折り畳み傘は入れなかったはずだ。少し目線を上げて、空を見る。嫌味なほどに晴れていた。雨粒のひとつも見当たらなかった。私が聞

      • 【エッセイ】 ゲリラ豪雨の後の虹

        久しぶりに虹を見た。夕立の後の虹なんていかにも夏らしくて風情があって良いなと思ったけれど、天気予報で夕立が降ると言っていた覚えはない。そういえば最近夕立という言葉を天気予報で聞かないなあと今更気付いた。代わりにゲリラ豪雨というワードをよく耳にするようになった。 ゲリラ豪雨。どうにも心安まらない響きである。ゲリラ、というと何だか物騒な感じがするし豪雨というのも災害のイメージが強い。夏の風物詩の印象がある夕立とは何かが違う。情緒がないのだ。分かりやすくいえば虹である。「夕立の後

      【小説】 舞い落ちる蝉