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1日小説『夢の星』

 20××年のある夏の日。俺は当たり前のように起床し、母さんがいつも用意してくれる朝食を食べ、大学へと通った。友達の晴翔(はると)にカラオケに誘われ、俺たちは河原町のカラオケ店へと向かった。その途中、空にきらりと何かが輝いた。
「なんか光らんかった?」
 俺は空を仰ぎながら晴翔に尋ね、彼も空を仰ぐ。
「何もないと思うけど。飛行機とかやない?」
「……そうやな」
 少々納得がいかないものの、本当に何かが輝くのをこの目でしっかりと見たわけではないので、気にすることなく歩みを進めた。

 ゴォオオオオオオオオオオ!!

 突然大きな揺れが起き、俺たちは咄嗟にフェンスを掴んだ。
「なんやなんや?!」
「地震?!」
「やばっ!商品倒れてるやん!」
「死ぬかと思った……」
 周囲は混乱し、そこら中にスマホからのJアラートが鳴り響く。
「これ、帰った方がいいやつ……?」
「多分……」
 俺はハッとした。もしこの大きな揺れが、いや、それ以上に最悪な事態が起きてしまえば、俺の家族が危ない。何よりまだ小学三年の弟の律(りつ)を守らなければ!
「ごめん晴翔!俺家帰るわ!」
「え?!おい!」
 晴翔の呼び止める声には振り向かず、俺はひたすらに走った。電車もバスも緊急停止していて動かず、足を止めることなく帰路につく。
「兄ちゃん!」
 歩道橋の上から律が俺を呼んだ。俺はすぐに声の方へ向かって走り、階段を駆け上った。そして、律の手を握ろうとした時だった。

 ゴォオオオオオオオオオオ!!……キィイイイン。

 これは夢だろうか?耳鳴りがする。でも、まだ眠っていたい。寝心地の悪い凸凹としたアスファルトだったものの上で、俺は再び目を閉じた。

「律!」
 バッと起き上がり、俺は完全に意識を取り戻した。
 目の前の光景は地平線だった。
「なんやこれ……?」
 変な夢でも見ているのかと頬をつねるが、感覚はいたって正常で、普通に痛かった。辺りを見渡しながら凸凹とした地を歩く。建物も何もない。雲一つすらない。それ以前に空は夜よりも暗く、無数の星が輝いている。まるで月にいるみたいだ。
「律ー!律ー!母さーん!父さーん!晴翔ー!」
 何度も何度も叫び続けるも、誰の声も聞こえない。
「誰かいませんかー?!おーい!」
 やはり人の声は聞こえず、大した距離を歩いたわけでもないのに、どうしてか息苦しくなっていく。
「りつ……。みんな……。どこ……や……」
 俺はこのまま死んでしまうのだろうか?誰もいないこの星で、孤独に死んでしまう。怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い!!誰か助けて!!

「壱(いち)!」
「……父さん?」
「兄ちゃん!」
「律……?」
「壱……!よかった……!」
「母さん……」
 気付けば俺は病院のベッドで寝ていた。父さんの話によると、俺は一ヶ月も眠っていたらしい。その原因はわからず、何の異常もないことから、ただ病院のベッドで寝るだけの入院になっていたとのこと。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「うん。普通に寝とっただけやで。感覚的にはいつもの睡眠時間と変わらんかったけどなぁ」
「本当にそれだけなの?」
「大丈夫だよ。ただ変な夢見てただけだし」

 パラパラパラパラパラッ!!

 起き上がった瞬間、毛布がずり落ちると同時に、俺の服に付いていた大量の砂が一斉に下に落ち、砂埃が舞った。
「なんやこれ?!俺外で寝とったん?!」
「いや、家で寝とったけど……。なんやこれ?いつ付いたんや?」
 父さんも母さんも律も知らない様子で、俺はハッと夢のことを思い出す。不思議なことに、それははっきりと覚えていた。
 誰もいない星で倒れていた時以外に付くはずのない砂。
「これ……、夢の中の星の砂や」
「なにそれ?」
 律が砂を拾おうとすると、病室の中に強風が吹き、砂は一粒残らず風と共に消え去っていった。
「大丈夫?!」
「ぼく平気。兄ちゃんは?」
「……うん」

 眠りから覚めた日、すぐに退院をし、俺はいつもと変わらない日常を過ごした。ただ、その「いつもの」に変化が起こった。眠る度に毎日夢を見るようになった。それも、あの星の夢だけを。たった八時間程度の睡眠なのに、夢の星にいる時間は一日の感覚だ。何もなく、何をすることもなく、ただ孤独のまま目覚めるのを待つ。気が狂いそうなほど苦しく、時には夢の中で自分の首を絞めた。けれどただ苦しいだけで目覚めることはできず、あの事件の日から3週間と少し経った後、俺はストレス過多によって死んだ。

 頭の中で懐かしい記憶が蘇る。己の快楽のためにいじめていた中学の頃の同級生の女子。転校してきて、可愛い印象があったけど、コミュ障かあまり喋らず笑うことも少なかったから、みんなが気味悪がっていじめた。俺は傍観していただけだったけど、みんなと一緒に同じようにいじめたら、楽しいことに気がついた。今まで溜まってきた鬱憤が晴れ、快楽を感じた。本当に楽しかったんだ。誰にも咎められることなく、いい子のまま演じられて、裏では快楽を味わうためにいじめる。最高の中学校生活だった。まぁ、そんなのすぐに忘れたけど。

 そういえば、中学の頃の同級生みんな死んだってマジ?

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