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【小説】#30.5 怪奇探偵 白澤探偵事務所|曰く付きの絵皿|閑話

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「野田くん、疲れていないかい?」
「疲れてはいるんですけど……なんか、慣れないことしたからなのか、頭がしゃきしゃきしてるんですよね」
 あれこれ買い込んで家に帰り、飲み食いで満たされたあともしばらく白澤さんと喋っていた。体は疲れているのだが、まだ喋っていたい気持ちがある。頭の方はまだ元気であるらしい。
 腕がだるい。特に、皿を持ち床に落としていた右腕が重い。左腕も使えばよかった、と今更気づく。足も棒のようだ。風呂でしっかり揉んでやらなければ、明日は身動きがとれなくなるかもしれない。
「この皿だったらどう割るかなって今も何となく考えてしまうというか……」
 目の前にある皿を指先で押す。平たい皿は意外と割れない。金属バットを使う方が早い。
「私も同じことを考えていたよ」
 不思議だよね、と言いながら白澤さんがすいと皿を片付けた。割りそうだと思われたのかもしれない。さすがに家の皿には手を出さないが、あっけなく割れるだろうことは想像できる。
「そういえば、エチゴさんにもらった入浴剤だけど……疲れが取れるだけでなくて、気持ちを静めるのにもいいんだよ。支度しておいたから、入っておいで」
「気持ちを静めるっていうのはアロマみたいなやつですか?」
「まあ、そんな感じかな。片付けは私の方でやっておくから」
 帰宅してから、何もしていない気がする。寿司を食べて茶を煎れたくらいだ。ただ、正直に言えば疲れているからありがたいことではある。
「……いただいてきます。色々すいません」
「いいんだ。私はほとんど手伝えなかったからね」
 封筒の方にかかりきりだったからだということは俺もわかっている。責めているわけでもないが、どうやら白澤さんの方が気にしているらしい。それなら、素直に甘えることにした。


 入浴剤は微かに森のにおいがした。風呂から出た後はすぐに眠くなってしまって、そのまま布団に潜る。眠りに落ちたのも気づかないくらいぐっすり眠って、夢も見なかった。