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「社会」と「哲学」の接点を探る…っていうのが今の流行なんでしょうか:読書録「哲学の門前」

・哲学の門前
著者:吉川浩満
出版:紀伊国屋書店(Kindle版)

bar bossaの林さんのnoteでちょっと紹介されてて、「面白そう」と思って購入。
ちなみに紹介されてたのは「右派/左派」の整理のところ。
そこ自体、「引用」なんですけど。

<そんななかで、目から鱗が落ちる思いがしたのは、経済学者・松尾匡氏による右と左の定義に出会ったときでした。  
彼は、右と左を分ける最大のポイントは、世界を切り分ける見方のちがいだと言います。世界を縦に切って「ウチ」と「ソト」に分け、その間に本質的な対抗関係を見て、「ウチ」に味方するのが右。それに対して、世界を横に切って「上」と「下」に分け、その間に本質的な対抗関係を見て、「下」に味方するのが左。これが本来の右と左の定義であり、これ以外の定義はありえない、と。きわめて明快です。>

<右と左の対立は、たんに世界の切り分け方がちがうことからくるのではありません。お互いが自分の切り分け方を前提にしたうえで、相手を自分と反対側に立つ者だと考えるから生じるのです。  
つまり、左派にとって右派は、世界を横に切って「上」と「下」に分けたうえで「上」に味方する卑劣漢にしか見えません。そして右派にとって左派は、世界を縦に切って「ウチ」と「ソト」に分けたうえで「ソト」に味方する裏切り者にしか見えないのです。世界の切り分け方がちがうだけでなく、お互いが相手を誤解したうえで憎み合っているのですから、わかり合うのが非常に難しいのもうなずけます。>


個人的には極めて納得感のある整理でした。



本書は「哲学の<門前>」ということで、<入門>ではなく、その<門前>で哲学について語るという作品。
「入門書」が「その哲学理論はこういうもの〜」という入り方になるのに対して、本書の場合は
「自分の体験でこういうことがあったんだけど、それを哲学というフィルターを通すと、こんな風に考えることができるんじゃないかと…」
という感じで、「自分の経験」をキックにして考えを深めてるって感じでしょうか。
「連載」をまとめたものなので、そこまで整合性が取れてるものでもないんですけど。



その「自分の経験」は目次からピックアップするとこんな感じ。

ディス/コミュニケーション:「コミュ障」に関する個人的経験
政治:在日3世としての経験
性:フェミニズムに関する読書会運営での経験
仕事:自分の職歴
友だち:哲学活動のパートナーである山本貴光氏との関係




まずは「経験」について語り、そこから「哲学」的な考えを広げていく…という構成になっています。
作者は「哲学」という学問を強く信じているので、論の深め方はそんな「わかりやすい」モンでもないですね。
そういう意味では「入門書」とは一線を画してるかもしれません。
個人的には、
「いや、ここら辺はチョットわからんな〜」
ってとこも少なからず…ではあるんですがw、こういう感じで考えを広めたり深めたりするのは興味深く、結構面白く読ませてもらいました。
語り口が平易でいい…ってのもありますかね。


ヒットしたらしい千葉雅也さんの「現代思想入門」も、それに触発された「現代思想100」シリーズも、キーとなるとは「実社会と哲学思想との関係」。
本書はアプローチの仕方は違うものの、大きな方向性としては重なるところがあると言えるのかもしれません。
いずれも「哲学思想」に対して<意義>を認めてるところからスタートしてるわけですし。
個人的にもそういう視点は面白いし、重要だとも思っています。
(冒頭で紹介した松尾さんの「右派/左派」の整理なんか、今の「分断」の有り様の説明としてはすごく<使える>んじゃないでしょうか)


どうも作者はYouTubeでも色々活動されてるようです。
少し見てみようかな?


#哲学の門前
#吉川浩満

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