見出し画像

書記の読書記録#235「想像ラジオ」

いとうせいこう「想像ラジオ」のレビュー


「戦後文学の現在形」収録作。


レビュー

第35回野間文芸新人賞受賞作,第11回2014年本屋大賞ノミネート。

いわゆる「震災文学」の一種であり,それにより評価は大抵参考にならないものとなっている。涙腺が破綻している読者があまりに多すぎる。

本作は芥川賞候補作でもあり,選評をいくつか引用する。私の感想としてはその折衷を採用したいところだ。

肯定意見:高樹のぶ子の選評「小説を書く目的として最も相応しくないのがヒューマニズムだということも、作者は知っている。この作品をヒューマニズムの枠組で読まれることなど望まず、作者としては樹上の死者のDJを愉しんで貰いたかったのではないか。」「小説に出来ることはその程度だ。その程度しか出来ないという哀しみから、書く蛮勇はうまれる。」
否定意見:村上龍の選評「『想像ラジオ』の著者は、安易なヒューマニズムに陥らないために、いろいろな意匠を凝らしたのだと思う。だが、既出の映像が膨大かつ強烈で、文学としてそれらに「立ち向かう」ことがあまりに困難だったために、結果的に、また極めて残念なことに、作品からはヒューマニズムだけが抽出されることになった。」


ラジオを文学に落とし込もうという意図については,一定の評価を下してもよいと思う。気持ちの悪くなる自分語りも,この文脈ならなんとなく許されるユーモアだ。

「杉の木に引っかかったまま」という像が中々におかしくて,本作の美点の中心だと捉えているのだが,「魂魄のこの世にとどまりて」と変にカッコつけるのが良くない。

「想像」せよというメッセージがあるらしい?のだが,それはトラウマを抉るかのような大きな負荷を読者に要求しており,作者の姿勢を疑いたくなるのだが,そもそも「想像」しなければ聴こえないのが「想像ラジオ」なのであり,一応の線引きは出来ていそうだ。

これだけ批判の覚悟が整っているのであれば,思い切って突っ走ってしまったようが良かったのではないか。


本記事のもくじはこちら:


学習に必要な本を買います。一覧→ https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls/1XI8RCAQIKR94?ref_=wl_share