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Tutti Frutti

Tutti Fruttiといえばリトル・リチャード。1956年のデビュー作であります。歌詞は随分とエロい(放送禁止になってもおかしくない)ものなのですが、名曲には違いありません。

実は先日読んだ「アラバマ物語」の新訳「ものまね鳥を殺すのは」を読んでいて全く頭に残っていなかったのが「トゥッティ・フルッティ」のくだりがあったことでした。
アラバマ物語は1960年に発表されたので、もしかしたら作者のハーパー・リー氏の頭には(耳には)、リトル・リチャードのダイナミックな歌があったのかもしれませんね。

その「アラバマ物語」は1933年の夏から1935年のハロウィンで終わる話なのですが、その最後のあたりのハロウィンではスカウトがハムの着ぐるみを着て(タイトル写真)仮想芸に出た後大変な事件に遭遇するのですが、仮想劇になったのはその前年のハロウィンの子どものバカ騒ぎが原因で、そのバカ騒ぎはこちら。

「ミス・トゥッティ&フルッティ・バーバーは独身の姉妹だった。メイコムでは唯一の地下室を持つ家に暮らしていた。 アラバマ州クラントンから1911年に移住してきた人たちで、共和党支持者だと噂されていた。彼女らの暮らしぶりは私たちにとって奇妙であり、どうして地下室がほしいのかも誰にもわからなかった。それでも彼女らは地下室を欲しがり、掘って作らせたのだ。そして、数世代に及ぶ子供たちを地下室から追い出すことで、残りの人生を費やしてきたのである。
ミス・トゥッティとミス・フルッティ(トゥッティ・フルッティはブランデーシロップと砂糖に漬けたミックスフルーツのお菓子 )は(彼女らの本名はセアラとフランシスである)、北部人的な生活をしていることとは別に、耳が遠かった。ミス・トゥッティはそれを否定し、沈黙の世界に生きていたが、ミス・フルッティは何事も逃したくなかったので、ラッパ型の補聴器を使っていた。ものすごく大きいので、ジェムはヴィクター社製の蓄音機のラッパ型スピーカーから取ったに違いないと言っていた。
こうした事実を覚えていた悪い子供たちが、ハロウィンを前にして、いたずらを思いついたのである。彼らはバーバー姉妹が完全に眠りに就くまで待ち、彼女らの家のリビングルームに忍びこんだ(ラドリー家以外、夜に鍵をかける家はなかった)。そして、そこに置いてある家具を一つ残らずこっそり持ち出し、地下室に隠したのだ。私はこんなことに関わってないとはっきり言っておく。「聞こえたわよ!」という叫び声で、次の日の夜明けどき、バーバー姉妹の近所の人々は目を覚ました。「聞こえたわ、彼らはトラックをドアの前に乗りつけたの! 馬みたいに足を鳴らして歩きまわっていたわ。いま頃はニューオーリンズに着いたでしょうね」
ミス・トゥッティは、2日前に町を通りかかった毛皮のセールスマンが、家具を盗んだのだと確信していた。「浅黒い男たちだったわ」と彼女は言った。「シリア人よ」
ミスター・ヘック・ティトが呼ばれた。彼は現場付近を調べ、これは地元の人の仕業だと言った。ミス・フルッティは、メイコムの人の声ならどこにいてもわかると言い、昨夜は客間からメイコムの声は聞こえてこなかったと言った――巻き舌のrの音が家じゅうで響いていたからである。私たちの家具の行方を突き止めるには、大型の警察犬による追跡が必要だ、とミス・トゥッティは主張。 そのため、ミスター・ティトは16キロも車を走らせ、郡の猟犬をかき集めて、家具の臭跡を追わせた。
ミスター・テイトは犬たちをバーバー姉妹の正面の踏み段から放った。しかし、犬たちは家の裏に走っていき、地下室のドアに向かって吠えただけだった。3回目に犬たちを放ったあと、ミスタ ー・テイトはついに真実を悟った。その日の正午には、メイコムで裸足の子供は一人も見当たらなくなり、猟犬たちが元の場所に返されるまで、誰も靴を脱がなかった。」

まあなんたるバカ騒ぎかと思いますが、逆にメイコムという町の規模(小ささ)もわかるように思います。冒頭にもこう紹介されています。

「メイコムは古い町だったが、私が初めて知った時は、くたびれた古い町だった。雨が続くと街路は赤いぬかるみになった。歩道からは雑草が生え、広場にある郡庁舎は徐々に沈んでいた」

とあります。タイトル通りアメリカ南部、アラバマのその片隅の郡の中心ではあるけれど衰えていく田舎町として設定されています。
それだけにトゥッティ・フルッティ姉妹も共和党支持者として書かれていますが、共和党は南北戦争時代はリンカーンを担ぐ北部の政党で、戦後南部に進出します。しかしトゥッティ・フルッティ姉妹もやはり差別意識はぬぐえないよう。
「『浅黒い男たちだったわ』と彼女は言った。『シリア人よ』」っていうのも、ああアフロアメリカンに対してだけでなくこの頃から中東の人に対する見方があったのだと根の深さをハロウィンに思うのです。


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