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この世ならざる存在

何とか行きたいなと思っていたのですが、果たせなかったのが、みんぱく創設50周年記念特別展「日本の仮面――芸能と祭りの世界」でした。

私は仮面が好きなんですが、仮面ライダーあたりの影響かもしれませんね。ただ、能面のような非常にリアルで美しいものより、「なんじゃこれ!」というようなある意味土俗的で、奇怪な仮面が無性に好きなんです。
だから何度もアップしていますが国東半島の「ケベス様」が私にとっては最高の仮面なんです。

ケベス様のキーホルダー

展示会に行けなかったのでせめて図録だけでもと購入しました。いや様々です。こちらも田楽で使うとはいえ、なんでこんなおどろおどろしいのか、凄いです。

愛知県北設楽郡東栄町古戸

この古戸ですが、北設楽郡というのを見てハッとしたのは、今月の100分de名著の「宮本常一」の中の「名倉談義」の名倉もまた北設楽郡だったのをおもいだしたからなんです。

地図で見ると名倉と古戸は20キロくらいなのですが、車だと20分なのに、徒歩だと5時間かかるということは、昔は普段行き来をするほどの距離感ではないのでしょう。隔てているのが結構な山なんでしょうが、文化圏で言えば同じような環境かと思います。古戸は今は東栄町というところですが、個々には「花祭」というのがあります。これは古戸の近くの月という集落の「榊鬼」後姿ですが帯が凄い。

https://www.toeinavi.jp/spots/hanamatsuri/

隣町である設楽町の名倉にも古戸みたいなお祭り、田楽、仮面があったのかもしれません。
この辺は宮本常一があまり取り上げない所ですが。「100分de名著」の講師畑中氏はこういう指摘もしており、これには納得です。

「民俗学者が祭りをどう撮るのか、ということがわかる写真集です。年に1回の祭りとなると、みんな撮影に必死になるもの。再演もしてもらえないですし、その瞬間を切り取るしかないわけですから。一番いい瞬間を逃さないように対象物に集中してレンズをじっと見てしまうので、祭りの全体像なんて見てないということもよくあります。ではそのとき、宮本常一はどうしていたかというと、舞台の袖の観客を撮っているんですよ。その祭りに村のどんな世代の人が、どんな服装をして、どれくらい興味を持って見ているかを知るために、祭りの重要な構成員である村人の様子というものにカメラを向けている。実は祭りというものはこの人達を含めて祭りなんですよね」

もちろん面白い仮面もあります。こちらは与論の仮面。

与論十五夜踊り

もう素晴らしいとしか言いようがない。図録には来訪神として「薩摩硫黄島のメンドン」が大きく取り上げられていました。
私も大分にメンドン様が来られた時に間近に拝見しましたが、最初はその異様な仮面に口あんぐりでしたが、南方神以外の何物でもないお姿で手にお持ちの枝葉で叩いて回るのですが、それ以上に身体に巻きつけられた蓑のツンツンしたのが当たると痛いのです。

ところでタイトル写真は「なまはげ」ですが、よくテレビなんかで見るようなきれいな鬼の仮面じゃなくて、「なんじゃこりゃ仮面」で、こっちの方が暗い外から「悪い子いねえか!」ときたら、泣き叫び漏らすのは必定でしょう。
この本にはこんな解説もありました。

「各地の芸能や祭りに登場する仮面の表情は実に様々である。
記紀神話や地域の伝承に由来する神楽の神々の面、天下太平や五穀豊穣を祈願し寿ぐ翁面、伝説や神話、歴史に登場する武将や姫君などの人物面、滑稽な姿態で笑いを誘う道化面、釈迦や菩薩などの仏の面、地域独特の祭りや年中行事に現れる神霊の面、鬼や天狗などの善悪双方を兼ね備えた神霊の面、人々に祟って災禍をもたらす悪鬼・悪霊・幽霊の面、獅子などの聖獣や動物の面など、仮面の表情は実に多様性に富んでいる。
多種多様な各地の仮面には共通した特徴も認められる。例えば、仮面の役に出会した人々は、人が一時的に何かに扮した仮の姿ではなく、神々や鬼などの仮面が表すそのものの出現と見なしている、つまり、人々にとって『仮面はもはや、仮面ではなくなる』(ジャン=ルイ・ベドゥアン『仮面の民俗学』)のである。能の面、奥三河の花祭の面形など、実際に仮面を用いる芸能や祭りでは、『仮面』と呼ぶことがほとんどないことも、人々のそうした仮面に対する認識に通じるように思われる。しかも、仮面をつけた役は、神々や神霊の仮面に限らず人物や動物の仮面の場合でも、程度の差はあれ現世から離床し、聖性を帯び、人智を越えた能力を有する何ものかの出現とみなされる。南九州の島々では面をつけて扮する役がメン(ドン)と呼ばれるが、この地域では、神霊や妖怪や亡霊といったこの世ならざる存在全般をメンと呼んでいることも、おそらくそれと無関係ではない。」

その通りだと思います。仮面は「あの世」と「この世」の間にある「あわい」、「その世」から顔を出し、つかの間消えていく存在です。

やっぱり仮面は素晴らしいです。

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