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恐怖のヘイト工場

またまた「カルロ・ロヴェッリ」氏の著作からです。今回はイタリアの新聞社がヒトラーの「わが闘争」を出版することに対してで、丁度我が国でもミセスなるバンドの騒動があるので、そのことも含めて考えることができる。

まずはカルロ氏の著作から。

マイン・カンフ、わが闘争

「『イル・ジョルナーレ』紙は、売店でヒトラーの『わが闘争』の新版を提供することにした。この決定に腹を立てたり愛想を尽かすのは、じつにもっともだ。それでもわたしは、この論争の種となった行為を編集長がいささか不器用に弁護しようとしたとき、悪と闘うには悪を知って理解しなければならない、というその主張に首肯している自分に気がついた。
わたし自身は少し前に『わが闘争』を読んでいて、実際にそこから学ぶことがあった。意外なことを教わったのだ。今からそれをかいつまんで紹介したい。
ナチズムとは、もちろん残忍な攻撃性の発露である。長いナイフの夜から自暴自棄のベルリン防衛戦まで、ナチズムは極端な暴力の波に乗っていた。暴力や蛮行が勃発するやいなや、それらはゲルマン民族の人種としての優越や、文化の優越、力の賛美、協力ではなく衝突の視点からの世界観、さらには「劣った者」への軽蔑といったイデオロギーで正当化されていった。実際に手に取るまで、わたしはそういったことが書かれているのだと思っていた。
だがこのヒトラーの著作には完全に意表を突かれた。なぜならそこには、これらすべての真の源がはっきりと示されていたからだ。すべては恐怖から始まっていた。
わたしにとって、これは一種の啓示だった。おかげで突然、以前から理解しようと四苦八苦していた政治的右派のメンタリティーを把握できるようになった。右派-とりわけ極右-にカを与えている感情の主な源は、自分が強いという感覚ではない。むしろ逆の、自分は弱いのかもしれない、という恐怖なのだ。
『わが闘争』にはこの恐怖-自分が人より劣っているという気持ち、危険が差し迫っているという感覚-が歴然と表われている。他の人々を支配しなければならないと思うのは、じつはそれらの人々に支配されるかもしれないという恐怖があるからだ。協力ではなく戦いを好むのは、ほかの人々が強いかもしれないと恐れているからだ。わたしたちが一つのアイデンティティー、一つのグループ、一つの民族に閉じこもるのは、食うか食われるかの無慈悲なこの世界で、ほかの集団より強い集団を作るためなのだ。ヒトラーは、至る所に敵がいる野蛮な世界、あらゆる場所が危険な世界を描き出す。その世界で屈服したくなかったら、集団を作って幅をきかせるしかない。
この恐怖は結果としてヨーロッパを荒廃させ、世界中で7000万の人命が奪われた。
ここから何を学ぶことができるのか。思うにこの事実から、大惨事を避けるには、他者からではなく、彼らに対する恐怖から自分を守るべきだ、ということがわかる。
恐怖こそが、破滅的なのだ。互いに対するこのような恐怖から、相手を人間と見なさなくなり、そこから地獄への道が開けていく。第一次世界大戦の結果に傷ついて恥をかいたドイツは、フランスやロシアの力を恐れて、自己破壊へと突き進んでいった。それを教訓とし、ヨーロッパの協働と戦争阻止の中心として復興したドイツは、真の意味で繁栄してきた。
自分が弱いと感じる人々は、他者を恐れ、警戒し、自分を守るために、自分たちのアイデンティティーとされるものに群がる。強い人々は恐れることなく、対立せずに協働し、自分とそのほかの人々のためによりよい世界の創造に寄与する。誰かがみなさんに何かを恐れるべきだというのは、その人が弱いからだ。『わが闘争』は暴力の深層にあるこの論理を暴露する希有な本だ、とわたしは思っている。」

なるほど、安倍氏が北の脅威をあれだけ煽っていたのはここから学んだのかもしれない。そして、防衛費を増大させ、海外に兵器を販売できるようにし、軍需産業の後押しをしている岸田君もまた「わが闘争」から学んでいる一人だろう。
足腰の弱い政権の中でも自分の足場を守るために、目先をそらせる意図で日夜恐怖を探し、本当に見るべき問題を見ないようにしていることがわかる。
そういう意味で露朝のリーダーの姿は岸田君にとっては逆に絶好の機会、恐怖をあおる援護射撃だと思っているのではないでしょうか。

そしてこういう視点からMrs. GREEN APPLE炎上の件を考えると、まさに「「劣った者」への軽蔑といったイデオロギー」が露出したものだといえるし、自分たちは弱者(劣者)ではなく、強者にいるという驕りの視点に立っていること、違いは尊重でなく、優劣として見ていることを表しているといえるでしょう。

先日見たこの番組はインドのモディ政権に抗議する漫画家の話で、とても良かったです。
そこで彼女は、政府に反対する人を押さえつけるシステムを「ヘイト工場」と呼ぶ。間違いなくその工場のエネルギーは作られた見せかけの「恐怖」だと思います。

ちなみにタイトルはエマーソン、レイク&パーマーのアルバム「恐怖の頭脳改革」より

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