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いつも通り

随分春めいてきた感じがしたので、2か月ぶりに床屋に行きました。朝、思いついて電話し「今日空いてますか?」「OK」とのこと。夕方から参りました。

直ぐに床屋の親父(私より少し年上)から「椅子にどうぞ」と言われ座ると「いつも通りでいい?」と聞かれました。「あれっ日焼けしてるじゃない」とも。

私はこちらの床屋さん生まれて最初に髪を刈ってもらった店。もちろんそんな記憶はありませんが、幼児期は女将さん(今の親父のお母さん)、ついで先代の大将(今の親父の親父)、そして今の親父(現大将)。私は今66歳ですから、文字通り66年間の行きつけの店ということになります。

今は大将の娘さんとその旦那さん(若大将?)がメインで、親父にやってもらうのは私らみたいな年寄りだけのようです。
お店は同じ場所でずーっとやられているのですが、時流にあわせて何度か改装し、娘夫婦が帰ってきたときに大改装されました。
その前は頭を洗うのも洗面台に移動して、前かがみになってやってもらっていましたが、今はよくあるバックシャンプースタイル。でも正直親父は長い事(50年以上)前かがみスタイルの髪洗いをしていたので、ここ数年のバックスタイルはあまり手際が良くはないように思います。とはいえ客である私もバックスタイルに慣れていないのでどうのこうのとは言えないのですが…。

今回シャンプーしてもらいながら、顔の上には目隠しのタオルがあるので、ふと思い出したのが「男はつらいよ 寅次郎の青春」のシーン。

そうそう、床屋の風吹ジュンが顔をあたってくれる場面です。「そうか、ああいう雰囲気か」目隠し状態ですから親父じゃなくて風吹ジュンと想像しながら少しいい気持ちになったのです。シャンプーが終わりそのことを親父さんにいうと「爺さんで悪かったのう」とのことでした。

風吹ジュンを思い出したのは、先月細野晴臣氏のラジオにゲストで風吹ジュン氏が登場していたからでしょう。

彼女は私の少し年上で、当時はまあ歌も下手だし、演技も下手な今のアイドルみたいな感じで受け止めていましたし、別に好きでも嫌いでもという程度。
その彼女、この番組では好きな音楽を紹介したのですが、それが「サントメール ある被告」のエンディングでかかった曲として、ニーナ・シモンの「Little Girl Blue」でした。いや風吹ジュンってしみじみ良いなと思った選曲でした。

風吹ジュンも、その後年を取るごとに役柄がしっくり来て素晴らしい。番組でも言っていましたが、最近は病気とか死ぬ役が多くて…というものの、それがいい感じなんです。昨年見たこれも良かった。

ラジオでは最近ハマっていることとして「登山」をあげておられました。そういえばロコモアのCM見たことがあるな~と思ったのですが、彼女は中学まで富山、その後引越したのですが、その中学は卒業旅行で、立山登山をする学校だったようで、それにも参加できなかったのが心残りだったそうですが、随分ご無沙汰の同窓会で山岳ガイドをやっている同級生から「今からのぼりゃいいじゃない」と誘われて、訓練し立山、そして剣岳に登ったそうです。なかなかいい話で、風吹氏にグッと親近感がわきました。

さて床屋の話に戻りますが、今は店に行って何も言わなくても「いつも通り?」と言われる店ってホントなくなりました。それだけ身近なお店がどんどんなくなり、自分にとっても「いつもの〇〇屋」が消えていく寂しさを感じます。

私の女房は、長年従兄弟さんの美容院で髪をやってもらっていたのですが、昨年暮れに長年病気と闘ってこられた従兄弟さんが、急逝されました。亡くなる前の週まで店に立っていた本当に美容が生業(なりわい)というより天職だったのだと思います。その女房も長年「いつも通り?」とお願いしていた従兄弟さんが亡くなり、その後は美容院探しで苦労しているようです。
そういうのを見ると、顔をあたったり、シャンプーをするのが風吹ジュンでなくても、「いつも通り」の店があることが幸せだなと思う次第です。

最後に「いつも通り」で思い出すのは大貫妙子さんの歌。これは土岐麻子氏との動画ですが、やっぱり大貫妙子氏は独特の「いつも通り」の歌唱なんですね。

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