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掃除→Perfect Days→トイレ掃除

昨晩会社の掃除の後は Perfect Days を堪能しました。
箇条書きで感想を書こうと思いますが、ネタバレも含まれるのでまだ見ていない人は見ないようにしてください。

1 二時間の淡々と過ぎる映画を見せきるというのはヴィム・ヴェンダース監督の力量でしょう。確かに小さな出来事は起きるのですが、それは池に落ちた波紋のよう、あるいは映画の最後に紹介される木洩れ日のような小さな出来事で、平山という主人公の淡々とした生活の積み重ねを描くだけ。それで2時間スクリーンに釘付けにさせるのは凄い。

2 やはりなんといっても役所広司の圧倒的な演技。それも押さえた演技の素晴らしさです。ただ最後の笑顔と泣き顔は平山の毎日変わらないような日々の中で起きる木洩れ日のような感情の表現を垣間見せるものでした。カンヌの最優秀男優賞にふさわしいものでした。

3 日々の積み重ねの中で変化をつけるのが平山が読む文庫本と、車の中でかけるカセットテープ。とても良い選択でそれが主人公を形作っているもの、いや逆に主人公の平山だったらこういう本や音楽を選ぶだろうな、と感じるものでした。
公式サイトにはそれが紹介されています。

監督や主人公とほぼ同じくらいの年代の私としてはこれらの曲はとてもしっくりきました。ルー・リードも久々でしたがしっかり聞きなおしたい。またオーティス・レディングやニーナ・シモンはやっぱり凄い。私もこういう選曲をして一日をスタートしたいと思いました。
できればニール・ヤングが入っていたらよかったかな。

4 この映画は小津安二郎のオマージュであることは間違いないと思いますが、小津は当時の東京の生活を一つの家族によって表現する監督ですが、ヴェンダースは主人公を捉えながらも、周囲にある様々なものから今の東京を切り取っています。それは観光ガイドや絵葉書のような東京ではなく、平山が場面場面でフィルムカメラで撮っている、白黒のリアルで手触り感のある印画紙の上の写真、それこそ今の東京の風景、生活なのです。

5 この映画では浅草の地下鉄通路にある一杯飲み屋に仕事が終わって平山がチューハイを飲みに行くのがルーティンですが、その店のテレビで野球を映しています。東京ドームの巨人vs広島戦、丸が打って岡本がホームランなのですが、小津の最後の作品「秋刀魚の味」では川崎球場の大洋vs阪神戦。
オマージュの芸の細かいこと。

6 映画の中の小料理屋の場面でママ役の石川さゆりが常連客のあがた森魚のギターで「朝日のあたる家」を歌うのですが、これが素晴らしい。日本語バージョンということは「浅川マキ」バージョンですから歌詞も秀逸です。今までこれは「ちあきなおみ」の歌が好きでしたが、今回の二人も素晴らしい。なお映画の最初にカセットでかかるのもアニマルズの"THE HOUSE OF THE RISING SUN”であります。
「秋刀魚の味」でいい場面は平山(笠智衆)と加東大介が行くトリスバー「かおる」、そこのマダムの岸田今日子がいいんです。石川さゆりの女将もまたオマージュか。

7 公衆トイレに入る人を色々描いていますが、あまりトイレ掃除の人に声を掛けないのにびっくりしました。私は清掃中の方がおられたら「使わせてもらっていいですか」「ありがとう」は言うんだけどね。
それと首都高を主人公の車が走るので沢山のビルも映りますが、ひとつひとつのビルには当然ながらトイレがあり、そこには平山のようなトイレ掃除の人がいき、日々綺麗にしているのだな~、それを使わせてもらっているのかと感無量でした。

8 それと映画の最後近くに平山が「影踏み」をやる場面があります。そう言えば長いこと「影踏み」やってないな…と思いつつ、映画とはそれますが、遅ればせながら村上春樹の「街とその不確かな壁」を読んでいる途中なのですが、その話のキーワードの一つが「影」です。その中にはこんなセリフも
「果たして自分の影をこれまで正当に、公正に扱ってきたのだろうかと」

ということで一夜明けた本日が会社の仕事納め、まずはトレイ掃除から始めました。「今は今、いつかはいつか」ですから手を動かさねば。

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