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#97 面白半分日記07 人を呪わば穴ふたつ

誰しも得手・不得手があるものだ。
人間だもの。

たとえば私はマーケティンの講義で学生たちに対して学究的に重要な理論やデータを科学的根拠に基づいて論理的・合理的にわかりやすく解説することが不得意だ。

一方、学生たちは集中力を絶やさずに難易度の高い私の崇高にして科学的・論理的な解説を聞いて理解することがあまり得意ではないようだ。

需要と供給の均衡点が見つからない。

学生達は私のことを漫画・アニメの『呪術廻戦』に出てくる呪術高専の教師のような存在だと思っているのかもしれない。

先日、教育関連の講義で私の話を聞いているうちに段々と意識もうろうとなりトランス状態に陥った学生がいた。

完全に机に突っ伏して目は硬く閉じられ吐息がやけに深いのだ。

このような場合、私は恐れをなし気を取り乱して学生達を置き去りにし泣き叫びながら教室を飛び出すという感情的な行動をとることはない。

私はいついかなる環境下でも冷静沈着に振る舞い、常に学生に寄り添うことを厭わない模範的な教師のふりだけはするよう心がけている。

私は躊躇することなくトランス状態の学生の傍らに歩み寄った。

もちろ除霊とか悪魔祓いではなく学生の安否確認及び救護のためだ。

「もし、もーし!大丈夫か?
私の声が聞こえるかー? 
呼吸はしてるか?脈はあるか?
なあ君たち、緊急用のAED(自動体外式除細動器)がどこにあるか知ってるか?」

「いいえ、わかりません (~_~;) 」

「そいつは大変だ!この建物の1階中央ホールの壁に備え付けてあるんだ。
万が一に備えて正確な場所を覚えておくんだぞ!」

「はい、わかりました!」

そんなやりとりをしているなか、件のトランス状態だった学生が正気を取り戻した。

「おい、大丈夫か?
私はキミを救護するためにここへ駆け付け、誰かにAEDを取りにいくよう指示しようとしていたところだったんだ。
どうやら心肺蘇生は不要のようだな」

「あっ、すみません、あのぉ~」

「いや、今は無理にしゃべらず安静にしていなさい」

「すみません!僕が悪いんです・・・・」

「いいって、気にするんじゃない
辛かったら床に横になるといいよ」

「おい、みんな、クスクス笑うのは不謹慎だぞ!
私は君たちの健やかな成長と命の尊さを重視する講義を心がけているんだ。
つまり、教師を目指す君たちにも、授業づくりや生徒指導のあり方についてしっかり考えてほしいということだ。

こうして騒動は一件落着し、講義を再開した。

「さて、今日の講義のテーマは教師の本丸である“授業”のあり方についてだ。
たとえば、君たちは授業中に眠くなることはないか?
つまんない授業は催眠術同然だ。

それはそれとして、
私は長時間の研修や講習、会議なんかで、たまに気が遠のくことがあるんだ。

目の前をヒツジが1匹、ヒツジが2匹、3匹、4匹・・・と目の前を通り過ぎる幻覚を見ることもあったりしてね・・・・・

病気かなと不安になることもある。

大概は正気に戻るんだけど、悪夢を見て寝汗をかいたみたいな感じになっていることもあるので、一度、心電図とか脳波を測ってもらう必要があるのかなと思っている。
失禁とかしたら嫌だしね・・・・・

あっ、話を戻そう。
授業の組み立て方や進め方は前回解説したとおり、基本は「導入・展開・まとめ」だね。
さて、そこで今日は・・・・・・・」

こうして、私と学生たちの濃密で充実した90分間の講義はあっという間に過ぎてゆく。

何かが起きても学生たちが悪いわけではない。

私が導入段階で悪魔払いをしたり、その辺をうろついているヒツジを追い払えば、授業はつつがなく進むのだ。

つい「こんちくしょうめ!」と思ってしまうことがある。
人間だもの。

それでも他者を呪ってはいけない。

人を呪わば穴ふたつ。

自己の至らなさを棚に上げて学生たちを呪えば、やがて同じ形で自分に返ってくる。

墓穴をふたつ用意しておく覚悟を持たなければいけない。