中国軍艦による口永良部島付近の領海侵入の隠された目的とは?
8月31日(土)、防衛省は中国海軍シュパン級測量艦1隻が同日朝、鹿児島県沖の口永良部島南西の我が国領海に侵入したと発表しました。本件に関して、多くのメディアが中国軍の狙いについて、以下のように報じています。
測量艦は海底の地形や水深、海水温などを調べることができ、中国軍は潜水艦の運用に役立てるため、こうした情報を収集している可能性もある(参照:NHK記事「中国海軍の測量艦 鹿児島県沖 日本の領海内に一時侵入 防衛省(2024年8月31日付)」。
(先日の「男女群島への中国軍機による領空侵犯」と合わせて)自民党総裁選と関連がある。中国にとって、今回は「ポスト岸田」候補が、どう反応するかを見極める絶好のチャンスだ。だが、候補者たちの反応は、まったく鈍かった(参照:産経新聞HP「中国機侵犯「目に見えない日本侵略」開始 総裁候補を見極める絶好のチャンス(2024年9月1日付)」。
今回の領海侵入の目的について、「この海域は、潜水艦が中国から太平洋に抜けるための通り道の1つ。1年を通じて、潮流や海水温が変化する海域で、地形も複雑。今の時期にも、調査したい狙いがあったのではないか(参照:日テレNEWS「潜水艦運用のための情報収集か?中国海軍測量艦の領海侵入の背景は-(2024年9月1日付)」 etc.
これらの分析は間違いではないと思いますが、ただ、1点、大変重要な点を見逃しています。中国が、日本の有識者の弱点を突いてきたということもできます。また、今回の領海侵入からも、中国が本気で太平洋への海洋進出を狙っていることが窺えます。
本分析では、中国軍艦による口永良部島への領海侵入の隠された思惑について国際法の観点から分析をしていきます。
まずは事実関係を確認!
それでは、中国軍艦が領海侵入をした行動概要を確認していきます。以下の地図をご覧ください。
赤字が「中国海軍艦艇」の動きで、細い黒線内の海域が「領海」で、その周りにある海域が「接続水域」です。「屋久島」と「口之島」の間の中間線(トカラ海峡)をキレイに通っていることがお分かりいただけるかと思います。
実は中国軍艦がこのトカラ海峡内の領海に侵入したのは、今回が初めてではありません。中国軍艦は今まで日本の領海に13回侵入してきましたが、今回の領海侵入を含め、その11回がこのトカラ海峡への侵入なのです。
中国軍艦がトカラ海峡の領海を通過してきたルートを見ると、あることに気付く
それでは、中国軍艦がトカラ海峡の領海に侵入した「直近の2例」と、「非常に重要な1例」を見ていきましょう。まずは、「令和5年6月8日(木)」の領海侵入についてです。以下の行動概要をご覧ください。
今回と同じように「シュパン級測量艦」が領海侵入をしていますが、今回の領海侵入とは異なり、南東から北西に向かって、西に向かっていますね。つまり、今回の軍艦が取ったルートの逆を航行したことが分かるかと思います。
次に「令和4年12月19日(月)の領海侵入」を確認していきます。同様に、以下の行動概要をご覧ください。
このときも「シュパン級測量艦」が領海侵入をしていますが、令和5年の領海侵入と大体同じルートを通っています。そして最も重要な例が平成28年(2016年)6月15日に起きた同海峡への領海侵入です。
平成28年(2016年)6月15日の領海侵入について、令和元年版防衛白書は以下のとおり記述しています。
具体的な行動概要の地図は見つかりませんでしたが、「中国の軍艦が口永良部島と屋久島付近の日本の領海内を航行した」ことに変わりはありません。
この3事案から、「中国軍艦がわざわざ口永良部島近くのトカラ海峡を通航しようとしている」ことがご理解いただけるかと思います。なぜ中国はこのトカラ海峡を11回も通航してきたのでしょうか。ここからは国際法の観点で説明をしてきます。
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