職域接種

 私は複数の企業で嘱託産業医をしていますが、お伺いしている企業独自で職域接種をしているところはありません。職域接種は1000人以上のワクチン接種を要求されており、産業医も常勤で必要とされる規模になるため、中小規模の事業所では困難だからです。検討した企業はありましたが、人数やマンパワーの問題から断念しています。しかし、その過程で、企業の社員に対する考え方がありありとわかる場面もあり、複雑な気持ちになります。

 ある企業では、私は本社ではなく、地方の工場が担当です。本社から実験的に地方の工場で職域接種の指示がありました。この工場は夜勤もあるため、副反応を考慮すると人数をかなり分散しての接種とならざるを得ません。しかし、本社の指示は1回の接種につき2日程度の日程確保の試算。到底できるわけがありません。その旨をお伝えし、人数も集まらないため職域接種は行わない結論になりました。あまりに考え無しに地方の工場に接種を振ってくるのは驚きです。せめて勝手に決定する前に意見を聞いてほしいところです。

 また、自治体では、まさにお役所というべき縦割りの仕事で、自治体の病院に接種をお願いすればよいはずですが、「既存の医療には負担をかけない」という理由のもと、産業医のみで接種を行うようにとのお達しでした。接種を行うのはよいのですが、時間は足りず、通常業務を確実に圧迫します。そもそも産業医だけではマンパワーが到底足りないのです。こちらも結局行うにはいたりませんでした。

 もちろん、そんな企業ばかりではありません。産業医を受け持っているわけではないのですが、私が問診のお手伝いに行った企業は、夜勤のある工場のため、少人数の接種を繰り返す態勢で、医療職以外の方のサポートも手厚く、接種が円滑に進んでいました。きっと医療職のリーダーシップがあることに加え、企業としての態勢もしっかりしているのでしょう。

 普段、産業医をしていると目の前の社員対応に追われてしまいますが、企業の産業衛生に対する考え方も育てなければならないのでしょうね。

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