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読書記録「ドキュメント」

読書し放題の春休みが到来(歓喜)。
今週は、湊かなえさんの「ドキュメント」を読みました。

湊かなえ「ドキュメント」角川書店

この作品は文庫化もされている「ブロードキャスト」の続編です。
全国大会常連という責任を背負ったままバラバラになってしまった放送部が、1年生の入部をきっかけに活気を取り戻し、全国高校放送コンテストで準優勝を果たしたその後の物語。
不慮の事故から陸上をあきらめ、思わぬ出会いから放送部に居場所を見つけた1年生の圭祐は、三年生引退後、テレビドキュメント部門の題材として再び陸上と向き合うことになります。しかし、ドローンで撮影した動画のなかに、陸上部の期待の新人であり圭祐の親友でもある良太が煙草を持つ姿が残ってしまいます。親友の無罪を証明するために真相を追うと、ある人物が浮かび上がり、それぞれの正義と使命感が明らかになっていきます。

私は前作の「ブロードキャスト」が大好きで、まだ買って1年ほどですが3回ほど読み直しました。その時の読後感はすっきりとしていて、この感動を残したいと思い、noteで読書記録を付け始めました。

その時に、他の方の感想も気になって探して読み、そこで初めて湊かなえさんが「イヤミス(読後、イヤな気持ちになるミステリーのこと)」で有名な作家さんだと知りました。「ブロードキャスト」で初めて湊かなえ作品を読んだ私は、イヤミスがどんなものなのか想像もできなかったのですが、、
今作を読み終わってこれが噂の!となりました(正確にはイヤな気持ちというよりは続きが欲しくなるモヤっとした気持ちに近いですが)。
人間の弱点が美化されることなく等身大で描かれていて、登場人物たちのその後に思いを馳せたくなる魅力を感じました。誰かの幸せの裏には誰かの不幸が隠れていたり、誰かに注目すると誰かに光が当たらないことはどうしようもできない事実である。けれど注目を浴びている人々も、美しさや成功や幸せの定義を勝手に押し付けられている場合があることにも警鐘を鳴らす展開でした。創作のバイブルになるような本作。文章を書くことが好きな者として、定期的に読み返したいと思う作品でした。日々流れてくる報道は誰かの悲しみであること、それらを創作で伝える時に当事者の気持ちの確認を怠れば「ネタにされた」と受け取られてしまうことが少なからずあること、誠意を持って伝え続けること。忘れずにいたいと思います。

「ドキュメント」では、「ブロードキャスト」であまり深く描かれていなかった2年生が中心となりコンテストに挑んでいきます。
それぞれが放送部を居心地よくする役割を担っていて、それが読んでいてとても心地よいのですが、中でも黒田先輩が圭祐に伝えた言葉が印象的でした。

「放送部の町田圭祐として考えろ。俺はこれ以上、部員に去ってほしくないからな。経験者にしか理解できないと突き放すのは、怠慢だ。どんな内容でも、たいていのことにおいては、伝える相手は、その経験をしていない人たちだ。それを前提に、伝え方を考えろ。伝わらないのは、己の未熟さのせいだ」

湊かなえ「ドキュメント」より

陸上経験のある圭祐が、陸上部と親友を守ることに必死になるあまり、放送部の仲間たちと距離を作ってしまったことに対しての、黒田先輩の言葉です。放送部の仲間として圭祐を迎え入れているからこその発言だなと思い、厳しさの中に温かさを感じました。

そして、前作から大活躍の1年脚本担当・正也が今作でも最高にかっこよかったです。みんなに「よっ、脚本家!」と茶化されても動じず(それどころか少し嬉しそう)、冷静に状況を分析して、相手の気持ちを考えて行動する。自分の発言で相手を傷つけてしまった時も、必要以上に謝ることはなく、自分の本音を真摯に伝える正也。やっぱり好きなことがあって、そのためなら好きなこと以外も全力でできる人って強いですね。見習いたいです。

書き下ろしの終章は、コロナ禍の主人公たちを描いたものでした。序章から第7章までコロナ禍に連載されたものでしたが、その様な描写はなかったのでこのまま終わるのかなと思ったら最後に、、。この突然降りかかってくる感じが、当時のリアルさを出しているなと思いました。圭祐たちは、2年生からオンライン体制になったという設定になっています。私の高校時代とまったく同じで、私も全国大会がある文化部に所属していたので、共感を通り越して物語に入り込んでしまいました。しかし、本文には「コロナ」や「感染症」といった言葉は一切使われておらず、ただ「ほとんどの大会が中止になった」と書かれていました。この作品が文庫化されて、読み継がれて、コロナを知らない世代が手に取ったとき、何のことだか分からないのでは?と思うほどに、説明が一切ありませんでした。その表現方法に、「今の世代に伝えている」というメッセージが込められているような気がして、嬉しかったです。

最近のニュースやSNSを見ていて、創作と著作権について学びたいという気持ちがどんどん強まっています。その中で「ドキュメント」を読んで、「伝えるとは何か」について、自分なりの答えを見つけたいと思いました。
そのためにも書き続けなければ!がんばります!

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