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スターウォーズ歌舞伎は、歌舞伎全部入りだった

スターウォーズ歌舞伎、みる前は上記で書いたように、思想というかテーマ性の部分では色々と正反対だから大丈夫かな?と思ってたんです。ところが舞台をみたら驚いたことに、ちゃんとスターウォーズで、ちゃんと歌舞伎になってた。

ジョン・ウィリアムスのテーマ曲が鳴り響いて、タイトル・クロールがはじまればもうスター・ウォーズですが、ちゃんとついてました。映画でもスピンオフものの「ローグ・ワン」と「ソロ」にはオープニング・クロールはついてないのに、こっちは純正保証。黄色い文字の英語と日本語字幕の内容がなんか違ってるとこまで、完全通常営業なんです。

歌舞伎の内容としては、前作エピソード8『最後のジェダイ』のハイライトシーンを、細切れに歌舞伎化したもの。物語の背景・お話の前段は理解されている前提のもと細切れでクライマックスだけをみせられるというのは、歌舞伎の観客にとっては全くいつものことなので、構成も歌舞伎っぽい。一方スターウォーズのファンにとっては、エピソード9『スカイウォーカーの夜明け』公開前に前作を復習することもできるという、親切設計ですよ。

で演技・演奏なんですが、特撮もCGもホログラムもない時代に観客を驚かせるのに工夫された各種の要素、早変わりの一人二役とかトンボを切る立ち廻りとかをみせて、かつミュージカル要素的に竹本愛太夫の浄瑠璃と日吉小間蔵の長唄、さらに三味線のソロ演奏を競わせるように入れてた。一方、見得を切るところでは苦労もあって、頭上に刀を水平に持ち上げての見得では、普段は刀身を左手で持つところを今回左手は添えるだけ。素手で触ることができないライトセーバーの性質を反映してましたが、ちょっとやりにくそうだった。

そしてキャスティング。スター・ウォーズはストーリーが親子の話であるだけでなく、キャスティングでもキャリー・フィッシャー(レイア・オーガナ将軍)の娘ビリー・ラードがコニックス中尉役でエピソード7~9に出演。母娘共演となっています。彼女はキャリー・フィッシャーばかりか祖母の大女優デビー・レイノルズを、2016年12月に2日間で立て続けに亡くしており、9でどんな姿を見せるのか気になります。
そして、歌舞伎の方は海老蔵の息子堀越勸玄くんが出演。小林麻央さんは歌舞伎座でみかけたこともありましたが、こっちが勝手に辛くなるくらい勸玄くんは亡くなられたおかあさんそっくり。
なのに、幼少期のカイロ・レンとして登場した彼のセリフは「私は引き裂かれた。父からも母からも~」。役とはいえ、また単なるイベント興行とはいえ、どんな想いでいるものか、想像すると可哀想だった。
可哀想といえば、2013年に團十郎の部屋子となった直後に團十郎が亡くなってしまって、そのあと後ろ盾を失いながらもこつこつ活動を続けていた市川福太郎が、映画ではもう一人の主役であるレイ役で登場。部屋子が全員芸養子になるわけではないんですが、團十郎に子役で見出された役者が、成田屋で今後も活躍していくにあたっての軽いお披露目の場にもなった感じ。

一方 可哀想でなかったのは、悪の親玉スヌーク役の市川九團次。五代坂東竹三郎の名跡を受け継ぐことを期待されて芸養子になったのに、別の芸名を名乗って勝手に歌舞伎以外の活動をしたりしたことで破門。その後、海老蔵に拾われたのですが、破門までの過程を反省してるのかしていないのか? どうもダークサイドに堕ちたまま臭いので、悪い意味で適役だったと思われます。

演技・キャスト以外のところでも、立ち回りが多かったせいで附打がいつもより多くタタンタタンと鳴らしてたし、大向うさんの掛け声も客席後部の左右から聞こえてきて、細部まで歌舞伎らしく盛り上げてた。

………という几帳面なほどの歌舞伎全部入りを達成した演目を演出・振付したのが藤間流家元、子役で大河ドラマにも出演した経験もある藤間勘十郎。スター・ウォーズという巨大な素材をここまでちゃんと歌舞伎にまとめたのは藤間勘十郎の力量でしょう。海外にも配信されたイベントで、上記でみてきたように様々なレベルで歌舞伎らしいエンタテインメントができてまずは良かったと思いました。テーマや社会背景が正反対でも、それはそれ、単なる一要素として、正反対のものすらちゃんと消化できてしまうところが、歌舞伎の普遍性なのかもしれないと思いましたけれども。