ナウシカ

義経vsクシャナ ~ ナウシカ歌舞伎

スライド1

ナウシカ歌舞伎みてて、親兄弟から狙われ敗走を続けるクシャナって義経みたいだな、と思ったんです。クシャナ役の七之助も義経やったことあるし。

だた、じっくり比べてみたら義経とクシャナはやっぱり正反対シリーズだった(上記図参照)。なので、なぜ女形専業で静御前を演ずることもある七之助があんなにかっこよかったのか?ということを考えてみます。
(※義経とか線の細い若旦那も女形の守備範囲です)

伝統歌舞伎の中の女性は、家族のために自己犠牲で女郎屋に売られてしまうとか、忠義のために実の子を自分で殺害することになるとか、とにかくひどい目に遭う。一方ナウシカの世界では、未来のために戦っている戦士は、ナウシカとクシャナだけ。なかでもクシャナは、家族とのどろどろがメインの敵で、その中で多くの犠牲を出しながら生き残っていく。キャラクター的には歌舞伎と逆です。
さらに、クシャナには女形ではやらない立ち廻りもあるし、そもそも女形は花道をダッシュしたりしない。
女性キャラではあっても、普段のお役とキャラ的にも演技的にも正反対なので七之助ご本人は演じていてとても楽しかったんでしょうし、みているほうは伝統歌舞伎的な女性像をさんざんみているという長い助走がある分、一層新鮮だった。

これがナウシカ役になると、蟲と話したりファンタジー展開があるので歌舞伎の枠組みだとキャラ的にも演技のスタイルとしても手掛かりがなにもない。ひっくり返す元ネタすらない、大変難しい役だと思います。
なので菊之助のナウシカは今回、伝統歌舞伎的なお姫様演技∔宙乗りほかのけれんという形で表現しようという作戦だったのでしょう。空を飛ぶシーンは宮崎駿作品の数々のキャラクターの心の自由さの表現でもありますし。
ところが!三日目の事故による骨折のせいで左腕はギプスか何かで固定されてしまった様子。私がみたときは結局、演技はお姫様一択だった。とはいえ、そんなに物足りない印象にならなかったのは、ナウシカが謎解きに突き進む「人類にとって腐海とは何か?」という問題の複雑さとメッセージ性に気を取られて頭を使うからですね。

結果として、今回のナウシカ歌舞伎は ステレオタイプをストレートかつ痛快に壊してみせてくれたクシャナ/七之助 のためのものになっちゃいました。なので是非もう一度、当初構想した形での上演、ナウシカとクシャナの競演を期待したいと思いましたけれども。


※上記写真でこちらを向いていらっしゃる方々の
 ご尊顔は失礼ながらぼかしを入れさせていただきました。