「新・平家物語(三)」(講談社、吉川英治文庫)

 頼政は、信頼・義朝側と運命を共にすることは避けたが、清盛側へ積極的に参加することも避け、いわば中立を守った。

 義朝は信頼の醜態に逆上し、このような人間を盟主とした自分自身にも腹が立ち、最後には撲りつける始末。やがて信頼は、六条河原で死刑となった謀反人のうちの一人となる。義朝は尾張の家人を頼って身を寄せるものの、だまし討ちにされ首を取られる。道中、義朝一行からはぐれた頼朝は難を逃れ、やがて平家方に捕らえられ、紆余曲折の後に伊豆へ流される。義朝の妻・常盤御前とその子ら(牛若ら)は、これまた親戚の密訴により平家方に突き出される。

 義朝と別行動になっていた嫡子・悪源太義平は、義朝亡き後は潜伏し、親の敵とばかりに清盛を討つべく機をうかがい、ついに襲撃する。まさに常盤御前のもとへ通うところを襲撃するというのも、いかにもな狙いである。清盛にしてみれば実に気まずい、というか後ろめたい。後に捕まった悪源太はこの点を清盛に問い詰める。信頼が自分の策を受け入れていれば、父・義朝と清盛の今の立場は全く逆だったであろう、だが、父なら敗者の愛する女性を横取りにはしなかったはず、と。

 ここでまた一人、ある重要人物が登場する。

 奥州平泉と都の間を行き来し、砂金の取引を中心に商いをしている金売り吉次という男である。仕事は商い。朱鼻はその抜け目のない性格から、表向き商人の体裁を整えている吉次の正体を、奥州藤原氏・秀衡の家臣の中でも名のある武士と見抜いた。それを正面から問いただしてみても、吉次はのらりくらりとして答えない。朱鼻が陽気な大阪人の気性であるのに対し、吉次はあくまで粘り強さの東北人なのである。

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