「刑事マルティン・ベック 笑う警官」(M・シューヴァル&P・ヴァールー著、角川文庫刊)

 ミステリーファンの間では警察小説の金字塔として名高い作品である。この名作の書評を私が書くというほどのことでもないが、私が少々思っているのは、実はミステリーそのものの部分というよりも別のこと、本作で重要な要素となっているセックス依存症についてである。

 本作を読んで最も印象に残ったのがまさにそこで、ミステリーファンの手前、大変恐縮な話ではある。

 ともかく、本作の隠れたテーマ(と私は勝手に考えているのだが)は、貞淑で身持ちの堅い妻あるいは女性が、たった一度の情事をきっかけにそれまでの性生活を一変させるような劇的な変化を遂げるということが本当に起こり得るのか、ということなのである。

 私事で恐縮だが、かつての知り合いにある女性がいて、セックス依存症の男との数奇な人生について私に語ってくれたことがある。本人のプライベートなことでもあるので、その物語の詳細はここでは割愛するが、いずれかの機会にじっくり書いてみたいと思ってはいる。さて、それはいつになることやら…。

 ともかくも、男女の話になると本当に不思議なことが起こるもので、本作で触れられている話とも無縁ではないと個人的には感じた。男にしてみればなんということはない一度きりの情事だったのかもしれないが、女にとっては一生忘れることのできない経験になってしまうこともあるということだろう。

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