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百円コンサルティング6月号 日本経済自殺説・前編

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未来予測専門の経済評論家の鈴木貴博が好き勝手に書くWEB経済紙「百円コンサルティング」です。5月は現代ビジネスで「日本経済がなぜ成長できていないのか?」についてマグニフィセントセブンと日本を代表する大企業とのタイマン比較をするというお気軽企画で分析しましたが、今月から二カ月に亘って掲載するレポートでは別の切り口で「日本経済がなぜ成長できなかったのか?」に迫ります。題して「日本経済自殺説」です。お楽しみに。

百円コンサルティングは3か月過ぎるとバックナンバーは販売停止になります。一度購入された雑誌はnoteがある限りは読み続けられます。

日本経済自殺説・前編

1990年のバブル崩壊までは世界一の経済国家になるのではないかと思われていた日本が、90年代以降、謎の失速をして、現在では新興国レベルの経済へと転落しました。

30年以上にわたる経済停滞の理由をバブルの不良債権処理の失敗と結びつける説がありますが、今回の記事では前後編の2回にわたって別の切り口で解明してみたいと思います。日本経済の転落は、日本社会による構造的な「自殺」だったのではないかという分析の話です。

わかりやすい例としてまずはソニーを取り上げてみたいと思います。

ソニー(現ソニーグループ)は一般には2000年代のソニーショックで経営判断の誤りにより赤字に転落をして、そこから現在までの3代に亘る経営陣の努力でV字回復をしてきたと一般には考えられています。

でもこのレポートでは別の見方を提案させていただきます。1990年代にはGAFAMやマグニフィセントセブンになれる可能性があったソニーが、2000年代を通じて凡庸な一流企業になってしまった理由は、ソニー自身が停滞を選択したからではないかという考え方です。

この仮説を手始めにウォークマンで検証しましょう。1980年代にウォークマンが世界的なブームを巻き起こした理由は、それまで自宅のオーディオでしか楽しめなかった音楽を、屋外に持ち出せるようにしたためでした。ソニーは消費者が潜在的に求めていたニーズを形にしたのです。

80年代のMade in Japanの競争力はこのように、消費者が欲しいと思う製品を、それを消費者が明確に口にし始める前に、先回りして商品化するスピードでした。日本車は燃費の良さで売上を伸ばし、家庭用のワープロは年賀状の宛名を毎年手書きする苦行をなくしてくれました。

ウォークマンの場合、一度潜在的なニーズが顕在化したことでこのライフスタイルについての消費者ニーズはさらに広がります。もっとたくさんの音楽を持ち出し、映画やドラマ、ゲームも通勤電車に持ち出したいというニーズです。

消費者ニーズにあった商品を同じスピードで出し続けていけばソニーはこのジャンルでの世界企業になれたはずです。ところが不思議なことにこのユーザーニーズで2000年代に成長したのはアップルであり、スポティファイであり、ネットフリックスであり、そしてブリザードエンターテイメントのようなスマホゲーム会社でした。

本来であれば自宅のすべてのCDの音楽をハードディスクにダウンロードすべきはiPodではなくウォークマンになるのが自然な流れでした。ソニーのDVDレコーダーに録画した動画は圧縮してビデオウォークマンに格納できたはずです。2004年頃までにはそれが小さな液晶端末とフラッシュメモリを備えた手のひらにのるソニーのデバイスに入っていたはずです。何しろソニーは端末の小型化には定評があったのです。

そうならなかったのは「ソニーが進化よりも停滞を選んだからだ」と言う話をこの後しますが、その前にもうひとつのソニーの製品の話をします。

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