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タイ政局&自動車産業に与える影響

はじめに

 ここ1週間はタイに出張してお仕事してきたわけですが、訪問直前の総選挙で前進党が躍進するなどでタイ政局が相当におもろいタイミングでしたので、現地報道/メディア関係者との呑み/現地の人の声などを通じて色々考察してみました。
 仮に前進党政権が発足した場合、自社含めた自動車関連業界に影響ありそうな部分として公約から推察するに…
(A)エナジー分野の政府要求の強化
・EV販売促進、市中充電ステーション/充電機器設置への協力要請
(B)EV普及に関連した協力要請
・EV製造工場/バッテリーなど蓄電設備のR&Dへの協力要請
(C)サービス分野への規制緩和
・外資規制で参入厳しかった単資でのサービス事業への参入可能性
といったところになろうかと思われ。いずれにしても電動化の流れは現政権以上に速くなりそう…

1;タイ政局について

1-A;これまでの政局

 2001年の総選挙でタクシン氏が首相となり農村振興/貧困対策の軸足を置いて政権運営、タイ政治史上初めて任期全うして第二次政権に移行(05年)した。様々な背景が取りざたされるが、06年にクーデターが発生。以降の国内政治はタクシン派vs反タクシン派の対立構造に固定化された。基本的な構造として[反タクシン=保守層/都市部の既得権益層]、[タクシン氏を=社会秩序を乱すポピュリスト政治家]となる。
 14年に再びクーデターが発生、総選挙が実施され政権の座は親軍勢力に委ねられ、以降10年間は当時陸軍司令官としてクーデターを主導したプラユット氏が首相の座に。
 今回の選挙はタイ貢献党が政権復帰するかが焦点で、選挙前の世論調査では最大野党:タイ貢献党が支持率でトップ、首相候補;同党ペートンタン氏がトップに。しかし、選挙直前で野党2位/革新系;前進党が急速に支持を上げて、首相候補も前進党のピタ氏がトップに立つ大番狂わせが。

1-B;今回の選挙

 今回の総選挙での前進党躍進は予想以上の大番狂わせで、選挙戦終盤の急速な支持拡大がそのまま継続した地滑り的勝利になった。ただ、前進党が単独政権には議席数が足りず、今後の連立交渉がカギ。7月下旬には新首相が選出される予定だが、交渉の行方は不透明。
 当初は東北部/農民を基盤とする貢献党vs親軍勢力の現政権の戦いの構図だったが、貢献党は前進党の勢いに劣勢となり獲得議席数で及ばない結果に。前進党はバンコク首都圏/近郊での90%以上を制し、比例区と合わせて150議席獲得。解散時に比較して3倍以上の議席に躍進、貢献党は基盤である東北部を中心に141議席を獲得
 今回の下院議員500議席+上院議員250議席(現政権が指名)で次期政権を決めることになり7月の議会招集までの動きが焦点となる

2;前進党の公約

 基本政策は[反王室][反財閥/大企業]といった既得権益と戦う姿勢が前面に出ており、前議会ではビール市場の自由化に向けた法案提出(酒類製造の規制緩和)など、反財閥の姿勢を強力に出していた。
 国軍の政治関与を薄めるための憲法改正も目指す(国軍を国防省の管轄に収めることで軍勢力を削ぐ)前進党の公約をエナジー/モビリティなどに絞ってみると下記の通り(https://election66.moveforwardparty.org/policy)

2-A;Energy

(1)グリーン経済の構築
 再エネ技術のR&Dを促進して発電シェアを高める。特に蓄電技術に注力して再エネ体制への移行を促進する。
 急速充電キットの生産拡大/普及促進に向けたインセンティブ供与(現状の2倍)を通じた事業創出を刺激する
(2)原油価格の変動を減らす
 製油所での販売価格を開示して、市中でのガソリン価格の競争を実現する
(3)公正な電気代の実現
 一般消費者の需要にこたえる産業構造に変化させ、電気代をユニットあたり150B/月削減する。新エネルギーコンセッションと電力購入契約を交渉し、不稼働発電所の利用可能性から生じるコストを削減する

2-B;Mobility

(1)EV商用車産業の振興
 2030年までに国内全国のバスをEV化することを目指して、ディーゼルからEVへの移行に対して補助金/減税措置などの施策を実行する
 陸上運送法を改正し、EVに対応した整備規則/企画要件などを新たに定めて導入しやすい環境を創出する
(2)輸送機器産業でのニーズに基づく産業開発
 EV化を通じた環境配慮型産業の促進(全土の運行バスのEV化/HV化の促進)
 鉄道輸送における機関車から電動車へのシフト
 電池へのR&D推進(主に研究機関への助成)
(3)公共交通機関サービスの分散化
 車両運転事業者の規制緩和を通じた運賃低減(路線/運賃を設定する陸上輸送管理委員会の権限緩和)
 公共交通サービスに関する特別補助金(10億B/年)の創設
(4)交通渋滞/事故低減への道路システム設計
 道路開発を中央道路局/地方道路局間で適切な協議を通じて行う(システム共通化や道路間接続の簡素化など)
(5)7年以内にEVバスを全土に
 10億B/年の補助金を通じて全国で質の高い公共交通機関サービス普及を促すとともに、2030年までにEV/HVによる電力利用モビリティを100%とするべく法改正含めてインセンティブを準備する

2-C;SMB振興

(1)競争法の改正と独占資本の打破
 競争法を基本法とし、特定産業向けの法規制は下位に置く法体制へ。
 国営企業との競争に係る規制緩和(サービス産業などでの国内企業優遇の是正)
 消費者による損害賠償請求支援体制の構築(被害者救済ルートの拡大)
(2)中小企業との取引拡大への補助
 前年比で中小企業からの購入を増やした企業に対する税控除強化
 サービス分野でのアウトソーシング先として中小企業を選定した企業への補助金

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