見出し画像

TESLAのビジネスモデルの特異性

はじめに

今回はTESLAのビジネスモデル/事業構造についてまとめてみました。製造業ではありつつ、従来型の製造業の事業構造を徹底的に調査/分析して、そこに新しい発想/技術をインストールすることで高収益を実現していると思うのです。更に顧客満足度も高い…過去/歴史がないが故の自由で柔軟な発想は学ぶところが多いと思われです。

1;TESLAについて

 製造業の高収益体制実現には[製造コスト効率化][単価アップ]の2つが大きな方策で、いたってシンプルに考えられる。今回はTESLAの効率化策と単価アップ(売上向上)策について調べてみました。

2;効率化策(コスト削減)

2-A;生産稼働の高さ

 23-1Q時点での工場稼働率は88%となっており、業界の平均的な数値;60-70%(欧州)/75-85%(日本)に比べて高い水準になっている。公表資料によると23/1Qの生産台数は44万台で、年間生産可能台数(生産可能台数はカリフォルニア/上海/ベルリン/テキサスの合計)は200万台。
 工場稼働の高さは[固定費削減]と同義で、量産段階での稼働の高さは生産投資の回収に向けて速度早く進むということになる。基本的に自動車メーカーの業績悪化は[生産拡大→多額投資→計画外れ→生産能力余剰→固定費/台の上昇]が王道。一方、土日/残業でフル生産しているとの報道も…
 ちなみに、ToyotaやHondaも余剰生産能力削減(工場集約)で稼働率向上を進める。Hondaは[4R;77%稼働…出荷台数387万台(2022)に対して生産能力は501万台(最新)]、[2R;79%稼働…出荷台数1781万台(2022)に対して生産能力は2250万台(最新)]

2-B;販促コストの少なさ

 自動車業界はで販促に予算を割くのが常道だが、TESLAはイーロンマスク氏が広告塔になって広告宣伝を行わないのが特徴で無駄宣伝をしない。公表資料を見ると、そもそもPLに広告宣伝費用項目がない。
 自動車業界の平均的な販促費比率数値は2.1%程度(対売上/日経広告研究所)で、一般的には5-6万円/台と言われる。
 もちろん、これはマスク氏がある意味カリスマだからからこそできる技であり、他社が早々にまねできるものではないが、Toyotaならば豊田家/HondaならばF1などを活用できるし、日産は過去にゴーン氏が似たような広告塔してましたな。

2-C;自動車ラインナップの少なさ

 販売ラインナップは現在[Model S/X/3/Y]の4モデルのみで、各モデルともハード部分のオプション設定はほぼなく、せいぜいバッテリー容量のオプション程度。 モデル/オプションの少なさは[使用部品共通化][開発費の集中化]を通じて生産コスト低減へ寄与しているものとみられる
 従来の自動車各社は顧客ニーズ対応の名のもとにモデル/オプションを多数用意するが細分化は開発/製造コストの増加につながる。もちろん各社ともPF共通化を進めるが焼け石に水感は否めない。

2-D;最新の生産技術導入

 AI/Blockchain/量子コンピューティングなど、新しい技術の積極導入を進めることで効率向上させている。既存メーカーだと既設ラインの活用が念頭に立ち、スペース/改造時間の確保/原価償却などを勘案する必要があり、導入は容易でない…
 事例としては下記のようなものが。
 (1)メガキャスティング;溶接個所削減を通じた車体製造の単純化で、必要設備を大幅削減
 (2)AGV(無人搬送車)活用;自動車の組付において異常発生時にライン全体を止めず、AGVにより当該車体のみラインから外すことが可能に
 (3)デジタルツイン→製造車にセンサーを組み込み、車-工場間でデータ共有。膨大なデータのクラウドアップ/AI分析を通じて性能微調整/テストを常時実施して性能の高度化を図る+遠隔診断でき、顧客がサービスセンターに行く頻度を減らすなど利便性向上にもつながる

3;単価アップ策(売上拡大)

3-A;ファン造成

 Teslaには熱狂的なファンがおり、ファンコミュニティを維持/拡大する仕掛けを準備して実行する点は他企業に無い部分。特に直近事例で行くと、米テキサスに造成したギガファクトリーの開所セレモニーには全世界から約4万人が集まったとのこと。
 もちろん、EV本体の魅力(デザイン/走行機能など)に加えてイーロンマスクというアイコンに集まるファンは多少価格が高くとも購入行動に至るのは、初期のAppleに近しい熱狂があり、ブランド力は相当なモノ。宗教にも近いかも。

3-B;価格設定の柔軟性

 TESLAは短期間で価格を変更、ECや旅行商品などのダイナミックプライシングかと見紛うほどで、直近でも2月に1万USD弱の値上げを資源高を背景に実施。 これはWeb直販の強みであり、自社のみで判断/実行可能。
最近では資源/原材料の高騰で生産コストが上がれば即座に販売価格に上乗せして利益率維持が可能になっている。実際の資源高影響はわからないが、高くても売れるので高くするのは正しいプライシング戦略かと思われ。加えてディーラーを介しないので余計な販売管理コストがかからない点も強み
 既存メーカーでも値上げトレンドだが、[過去の遺産]が足かせとなって価格設定を柔軟に行うことができない。また、ディーラーを介した販売網が整備されており、メーカー一存で決定ができない

3-C;排出権の販売

 Tesla全体でみると自動車だけでなく排出権を売っている観点も見過ごせない。EV製造で獲得した排出権を他メーカーに販売することで利益を獲得している。背景として、欧米を中心に環境規制が厳格化、一定基準を保てないと罰金が科せられる状況下で基準を守るために各社は排出権を購入して罰則を回避する行動がある。
 直近23-1Qではクレジットで521百万USDを計上しており、粗利益4,511百万USDの12%を占めるほどのインパクト。原価かからず販売分が利益計上され、2019年までは排出権で利益を出していたほど



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?