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鈴掛真の短歌

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#詩歌

短歌 新作7首 『他者という名の世界』

東京にはこんなにたくさんの人がいるのに、ときどき自分は独りなんじゃないかと思う。 友達だって少ない方じゃないし、故郷に帰ればちゃんと家族はいてくれるのに、ほんとうはみんな僕のことなんかどうでもいいと思ってるんじゃないかって、たまに考える。 考え始めると止まらないので、そんなことないそんなことないって、飲みの席で不自然に大笑いしながら、友達の肩を強めに叩いてみたりする。 それで、ああ大丈夫だ、って思う。 そうしてまた何週間か経つと、また同じことを考える。 そんなループをぐ

短歌 新作7首 『シャツを羽織れば』

夏が終わりますね。 海や花火大会をどんなに楽しんでも、いいえ、大いに楽しめば楽しむほど、夏の終わりに吹く風は、やけに涼しく、切なく感じるものです。 けれど、決してビーチや観光地に赴かずとも、楽しみは部屋の中にも無数に転がっています。 例えば、テーブルの上に。例えば、クローゼットの中に。 それは、他人が見ればありふれたこと、そして昨日までの自分ですら何とも思わなかったことかもしれません。 幸福は、ありふれた日常の中からも、ある日突然に輪郭を持って現れるのです。 そん

短歌 夏の新作8首 『冬のすいか』

令和初めての夏も、終盤に差し掛かりましたね。 変わらないことで得られる安心感。 変わらないことで募るマンネリズム。 それでも今日という日を生きられることに感謝して、明日という日がやって来るのを待っている。 そんな日々感じているモヤモヤを、8つの短歌で表現してみました。 タイトルは『冬のすいか』。 夏だけど。 僕が所属している短歌結社「短歌人」の同人誌では毎年8月に、若い会員が腕を競い合う20代30代特集が行われていて、今年はこの連作で参加しました。 先月発売したばか