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難聴者とろう者の狭間で〜手話学習者として〜

手話と一言でいっても

「手話」というと「ろう者」が結びつき、「聴覚障害」と関連する。一方、「難聴」と「手話」というつながりが見えにくい。これは私自身の主観である。しかし、手話を学び始めた多くの聴者がもつ感覚ではないだろうか。耳が聴こえない、聴こえにくいということでは共通しているはずが、聴こえなくなった過程を異にするため、状況や背景、環境がそれぞれ異なる。

いわゆる制度の狭間

厚生労働省の調査(平成28年度)によると、身体障害者手帳を保持している聴覚障害者、言語障害者の数は約34万人であった。一方、日本補聴器工業会の調査(2018年)によると難聴を自覚している人は、1400万人以上と人口の11%にあたる。聴こえにくさはあっても手帳の対象とならず、いわゆる制度の狭間におかれている人が多く存在する。聴覚障害の等級は、2級、3級、4級、6級の4段階にわかれる。6級は「両耳の聴力レベルが70dB以上のもの」「一側耳の聴力レベルが90dB以上、他側耳の聴力レベルが50dB以上のもの」とされている。これは、つまり、両耳の聴力レベルが70dB未満の場合、手帳には該当しないということになる。

日常生活でよく耳にする音の大きさと難聴の程度を表したものが下の図である。

難聴の程度(https://hochouki.soudan-anshin.com/)

あくまで目安としてだが、木のそよぎ(20dB)が聞こえない場合には軽度難聴、小雨の音(40dB程度)が聞こえない場合は軽度~中等度難聴とされる。日常会話(60dB程度)が聞こえない場合は、中等度難聴とされる。つまり、日常会話(60dB程度)が聴こえない場合でも手帳に該当しない。日常生活に支障があっても、福祉サービスの対象からはずれる。これが制度の狭間である。

ろう者と難聴者のアイデンティティ

ろう者は先天的に聴こえない場合、多くは手話を第一言語とする。そのため、ろう者は手話を第一言語とし、手話に対するアイデンティティをもつ。難聴者、中途失聴者の母語(第一言語)は日本語である。そのため、難聴者、中途失聴者は日本語に対してアイデンティティをもつ。大切なのはそれぞれのアイデンティティを尊重することである。難聴者には難聴者に応じた手話の形がある。それは、ろう者が使う日本手話とは異なる日本語対応手話が多い。どちらも手話であり、どちらも否定されるものではない。手話学習者として、日本手話と日本語対応手話は比較する対象ではないことを念頭において学習したい。

手話の源流はつながる

中途失聴者、難聴者は日本語で考え、日本語で話をしている。手話については、母語(日本語)の視覚化という位置づけである。このことからして、手話の位置づけも必然的に異なる。ろう者の手話はほぼ声を出さない。口形はつかないこともあり、独自の口形もある。語順は日本語とは違った文法となる。一方、中途失聴者、難聴者の手話は、声を出す。口形は必ずつき、語順は日本語と同じである。このふたつの手話に差異はある。差異はあっても、それぞれのアイデンティティにおける手話の存在は否定されるものではない。手話はコミュニケーションの手段であるという源流はつながると考える。手話学習者として、そのことを念頭におき、活動をしていきたい。

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