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牛と暮らした日々-そこにあった句#11 牧草収穫

裸ひとつこの地に捨つるため稼ぐ  鈴木牛後
(はだかひとつこのちにすつるためかせぐ)

「今日から刈るかな」
6月のある朝、突然宣言される。
今年の1番牧草の収穫開始だ。

のんびりしていた頭の中が急に戦闘モードに切り替わる。そして、めまぐるしく考え始める。
朝の搾乳をしながら、今日やろうと思っていたタスクの中で、急がないもの、後日に回していいものをピックアップして消していく。

そして手抜き家事の段取りをつけはじめる。
このモードに入ると、まず片づけ掃除はしない。料理も最低限。生協で冷凍ものが届いているのでこちらは大丈夫だ。

それでは6月の、1年で一番忙しいある日を紹介する。

まず5時から2人で朝の牛舎仕事を始める。搾乳、哺乳、餌やりなどをして8時頃に夫がトラクターにつける作業機の準備をしにいくので、残りの牛舎仕事(牛を放牧に出した後の糞の掃除やミルカーの洗浄など)をひとりでやる。トラクターの準備が整ったところで、大急ぎで朝ご飯を食べて2人同時に出発する。

A草地で私がレーキ(牧草を集める機械)、夫がロールベーラ(牧草をロールにする機械)を同時進行で走らせる。私の方が早く終わるのでトラクターで先に家に帰り、軽トラに乗り換えて夫を畑に迎えに行く。そしてトラクターの後ろに付ける作業機を、レーキからテッダ(乾かすために牧草を広げる機械)に付け替えてもらっている間に、家で洗濯物を干し、朝食の皿洗いをする。作業機の付け替えが終わったら、また軽トラでA草地まで夫を送り届け、私はテッダをかけるために、B草地へ。そして続けてC草地にもテッダかけ。

終わったら弁当を作って、軽トラで夫に届ける。私はひとりで自宅で遅い昼食を食べる。夫も畑でひとりで弁当を食べる。
夫はロールベーラが終わると作業機をラッピングマシン(牧草ロールにラップを巻く機械)に付け替えて、休憩もなしにまた畑に行く。私は夕方の牛舎仕事をひとりでしなければならないので、早めに牛舎に行く。

ひとりなので時間がかかる。だいたい夜9時頃(下手すると10時頃)までやって終わるが、夫はまだ畑から戻らず、帰って来るのは夜中12時だったら早い方で、1時2時の時もある。
そして翌朝は、また5時から搾乳だ。

1年中こんな事をしている訳ではない。
ずっとこれだとやってられないが、今の時期だけなので、「今稼がないでいつ稼ぐ」と自分に言い聞かせて頑張る。
これが、北海道の酪農家の6月だ。

肉体一本万緑が締め上げてゆく 牛後
(にくたいいっぽんばんりょくがしめあげてゆく)

三歩行けば仕事を拾ふ夏野かな 牛後
(さんぽいけばしごとをひろうなつのかな)


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