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牛と暮らした日々-そこにあった句#13 見られる

白日傘傾ぎ見られてゐる労働  鈴木牛後
(しろひがさかしぎみられているろうどう)

うちの採草地のほとんどは人里離れた山奥にあるのだが、自動車がたまに通る道路に面している畑も少しある。
その畑でトラクターに乗っていて乗用車が通りかかると、作業を見られているのではないかと緊張する。
でも実際は、乗用車は普通のスピードで走っているので、そんなにじっくり見てはいない。

しかし、歩行者は見ている。
この道路はウォーキングコースになっているらしく、たまに市街地から歩いて来る人がいる。
中には立ち止まって、じっと作業を見守る人もいる。お目当ては、牧草をロールに丸めて、ポコンと産み出すところか、ラップマシンでロールをぐるぐるに巻いたあとダンプして地面におろすところか、どちらかのようで、見たことがない人は(毎年見ている人も)見学してて面白いようだ。

先日、酪農ヘルパーさんがうちに来た時に、「牧草作業なんか車で通りかかった人は誰も見てないよね~」と私が言うと、
「結構見てますよ。よその農家さんに行くと、『あそこはまだ刈り始めてない』とか『あそこはもう終わった』とか言ってますもん」と言っていた。

そうだった。忘れていた。同業者はしっかりと他牧場の動向を見ているのである。6月7月の牧草収穫シーズンになると、牧草の話ばかりになる。それしか興味がないのかというくらいだ。(それしか興味がないんです)

「あそこは刈ってしばらく経つのにまだ丸めてない」「もう丸めてもいいんでないべか」「あ~あ、雨に当ててるよ~」なんて聞く。

いつだか、晴れが続く間に作業を進めたくて、この道路沿いの畑を一気に刈ったのだが、機械が故障して途中で中断せざるを得なくなってしまった。天気の崩れに修理が間に合わず、その畑は3回も弱い雨に当ててしまった。

そこの畑は、住んでいるМさんに頼まれて刈っているのだが、私たちがトラクターで行くと、いつも家の中からタイミングよく出てきて、ペットボトルのお茶やスポーツドリンクを差し入れてくれる。
「Мさん絶対、家の中から見てるよ。雨に3回も当てて、この牧草どうすんだべかと思ってるよ」

ああ。立札を立てたい。
『怠けて牧草作業を中断しているのではありません。作業機が故障中なのです』
さてと。牧草収穫作業は、まだまだまだまだ続く。

光ごとごろり牧草ロールかな 牛後
(ひかりごとごろりぼくそうろーるかな)

夕照に沈んで百の草ロール 牛後
(ゆうてりにしずんでひゃくのくさろーる)


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