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牛と暮らした日々-そこにあった句#45 根明き

犢ほどの根明ありけり牛魂碑  鈴木牛後
 (こうしほどのねあきありけりぎゅうこんひ)

「犢(こうし、とく)」とは仔牛の意味だが、酪農業界で「トク」というと、ホルスタインのオスの仔牛を指す。

牛乳を搾る酪農家は、ホルスタインのメスが生まれると大人になるまで大事に育てるのだが、オスが生まれると、だいたい生後2週間から1ヶ月の間に肉牛農家に売る。それがトクだ。

トクが生まれると、残念なようなほっとしたような気分になる。残念なのは今搾っている牛の後継牛にならないから。ほっとするのは哺乳期間が短い上に離乳の訓練もしなくていいので仕事が楽だから。
ペットじゃないので、別れの悲しさを感じたことはない。

以前、酪農家の奥様がたの女子会で、「ホルスタインのオスの仔牛のことを何で『トク』って言うんだべか?」「売ったらお金になって『得』だからでないかい?」「がはははは」みたいな話があった。うちのご近所さんはみんなドライだ。

さて、3月も中旬を過ぎると雪解けが始まるが、まず木の周りから丸く融け始める。これを『根明き』というと私は知らなかった。しかも季語だと。夫の俳句を読んで初めて知った。どれどれ、マイ歳時記で調べてみるかな? あ、載ってない。

「『根明』が歳時記に載ってないよ」
「これはね。北方季語なんだよ」
北方季語…響きがかっこいいじゃないか。

「ねえ。根明きって木が生きてるから暖かくて、木の周りだけ融けるんだよね?」
「違うみたいだよ。前に生きてる木と生きてない杭の根明きの進み具合を観察したら同じだった。雪は白いから光を反射するけど、濃い色は光を吸収して温まるからじゃないかなぁ?」だそうだ。
科学的~。ロマンチックな理由じゃないねぇ。

根明きがだんだんくっきりして広がってくると、ああもう春は近いんだとほっとする。長い長い冬がようやく終わる。

政党看板雨に笑つてゐる根明 牛後
(せいとうかんばんあめにわらっているねあき)

根明きの頃は雨が降ることもある。
4ヶ月振りの雨だ。


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