スーパープレスティージュ2020-2021 最終戦「ミッデルケルケ」
シクロクロス3大シリーズ戦の1つ「スーパープレスティージュ」の最終戦が、2/6(土)にベルギー・ウェストフラーンデレン州の街ミッデルケルケを舞台に開催された。
女子も男子も僅差のポイント差で迎えたシリーズ最終戦。すべての選手が本来の力を発揮できれば総合逆転の可能性はかなり低いと思われていた中、重たい泥にまみれた悪コンディションが波乱を呼び、展開は想像以上に荒れる結果に。
果たして、総合逆転はあるのか。
女子レース
全部で5周。
女子レースにおいては総合首位に立つのがルシンダ・ブラント(バロワーズ・トレック・ライオンズ)。総合2位につけるセイリン・アルバラード(アルペシン・フェニックス)とのポイント差はわずか3ポイントとなっている。
【参考:スーパープレスティージュ女子第7戦までの総合リザルト】
しかし1位と2位のポイント差がわずか1ポイントでしかない(上表)スーパープレスティージュにおいて、アルバラードがブラントを総合逆転するためには、アルバラードがこの日優勝したとしてもブラントが5位以下に沈まなくてはならなかった(4位では同ポイントとなり、勝ち星の多いブラントが優先されてしまう)。
今シーズンのルシンダ・ブラントは最低でも表彰台(3位以内)を常にキープしており、1/23のX2Oトロフェー第6戦「ハンメ」で今シーズン初めての「4位」に落ちたほど。
それで調子が右肩下がりになっていればまだしもなのだが、つい先日の世界選手権ではしっかりと優勝してしまったため、そんな彼女がこの日5位以下になるなんて、ほぼほぼありえないだろう、と思われていた。
しかし、この日は雨こそ降っていなかったものの路面はどろどろで非常に重く、そんな中サンドセクションや急坂、背の高いシケインなど難易度の高いコースが設定されており、ブラントは序盤から大失速。
1周目終了時点では先頭から26秒遅れの7位に落ち込んでおり、2周目終了時点でも1分近いタイム差をつけられての7位あたりに留まる結果となっていた。
一方のアルバラードは、デニーセ・ベツェマ(パウェルズ・サウゼンビンゴール)に先を行かれるものの、序盤先行していた、マノン・バッケル(クレディショップ・フリスタッズ)は追い抜いて2位に浮上。
ありえないと思われていた総合逆転の可能性が、にわかに浮き上がってきた格好となった。
だが、さすがに世界王者は強かった。
3周目にはサンネ・カント(IKOクレラン)やヤラ・カステライン(クレディショップ・フリスタッズ)らが含まれる4位集団から力強く抜け出し、アルバラードたちに近づいていく。
3周目の終了時点では細かなミスを繰り返していたマノン・バッケルを完全に抜き去り、3位に浮上。
一方のアルバラードもベツェマには挽回不能なほどに突き放され、後半ベツェマも体力の限界が訪れてミスを多発するようになったものの、それでも前に追い付くことはできずに終わった。
結果、勝負としてはブラントに先行できたアルバラードだったが、総合では逆転は実現できず。
やれるだけのことはやったが、やはりブラントは強すぎた。
そしてデニーセ・ベツェマ、今期5勝目。3大シリーズ戦だけでも3勝目ということで、今シーズン非常に安定した走りを続けることができている。
今や、ブラント、アルバラードに続くエリート女子現役3番手の位置を、アンマリー・ウォルストと互角に戦える位置にまできている。
これからの更なる進化にも注目だ。
【スーパープレスティージュ最終戦「ミッデルケルケ」女子リザルト】
この結果を受けた、スーパープレスティージュ2020-2021女子の総合最終成績は以下の通り。
【スーパープレスティージュ女子最終総合リザルト】
ブラントはわずか2ポイントで総合首位を保持。
アルバラードは昨年に続く2連覇、ならずとなった。
ブラントはあとは「グランドスラム」まであとはX2Oバドカマー・トロフェーの2戦を残すのみ。
ただ、実はこのX2Oトロフェーが曲者で、現在の総合成績ではブラントが2位のベツェマに対してわずか38秒差。
【参考:X2Oトロフェー女子第6戦までの総合リザルト】
そして今日、このミッデルケルケで優勝者ベツェマと3位ブラントとの間についたタイム差は、1分08秒・・・
もちろん、本番でどうなるかは、まだまだわからない。
まずは注目のX2Oバドカマー・トロフェー第7戦「リール」が明日開催となるため、ここは決して見逃すことができなさそうだ。
男子レース
全部で7周。
男子においても総合争いは混沌としており、現在は前節「ヒュースデン=ゾルダー」でそれまで総合首位だったエリ・イゼルビット(パウェルズ・サウゼンビンゴール)が途中リタイアとなったため、2位につけていたトーン・アールツ(バロワーズ・トレック・ライオンズ)が逆転。
【参考:スーパープレスティージュ男子第7戦までの総合リザルト】
とはいえまだそのポイント差は5ポイント。たとえばイゼルビットが優勝してアールツが6位以下に沈めば、同ポイントとなっても勝利数の関係でイゼルビットの逆転総合優勝が実現する。
そして女子でも見られた波乱の展開が、この男子でもより濃い形で実現することとなる。
まず、スタートダッシュを決めたのが、その逆転に向けて全力を尽くしたいイゼルビットであった。
さらに、このイゼルビットのアタックに、チームメートのローレンス・スウィーク、マイケル・ファントーレンハウトがついていく。
ポイント差が着順によって定まる以上、イゼルビットとアールツの間にこの二人が入り込むことによって、その時点でまずは3ポイント差をつけることができる。
当然、平坦路ではスウィークらがイゼルビットの前に出て風除けになって牽く姿も見せるなど、シクロクロスでは珍しいチームワークを発揮していく場面となった。
一方のトーン・アールツは女子のルシンダ・ブラント同様にかなりの苦戦。
一旦は7位などに落ち込み、状況はかなり危機的なものになってしまった。
しかしそれでも、後半戦に向けて先頭のパウェルス3人組に続く4位にコルネ・ファンケッセル(トルマンス・シクロクロスチーム)、5位にラース・ファンデルハール(バロワーズ・トレック・ライオンズ)が入り、トーン・アールツはその後ろの6番手の位置にまでは上がることができた。
そしてここで、ファンデルハールが明らかに足を止め、後続のアールツを待つ姿を見せる。
そのままアールツを牽きながら走るファンデルハール。これで最後に彼がアールツを前に出してフィニッシュすることで、アールツは最低でも5位を守ることができ、イゼルビットが優勝したとしても総合逆転はされない状況にまでもっていくことができた。
こうなれば、パウェルズ・サウゼンビンゴールとしても、イゼルビットのために2人を使い続けるわけにもいかない。
実際、イゼルビットも怪我の後遺症が消えてはいなかったのか、レース後半にかけて明確に失速。
これを守り続けては最悪、ファンケッセルにも追いつかれかねない、ということで、スウィークとファントーレンハウトの2人に、アタックの許可が下りる。
そして加速するスウィークとファントーレンハウト。
「シクロクロス専属組」としてはトップクラスの実力を持つ二人ながら、マチュー・ファンデルポールやワウト・ファンアールトといった異次元の存在がゆえになかなか勝ち星に恵まれない彼らにとって、彼らがいなくなったこの世界選手権後の数戦はまさにチャンスであった。
熾烈な追走劇を繰り広げる二人ではあったが、ドロップオフ区間でファントーレンハウトがミスをして転倒したことによってその差は決定的に。
最後はつい最近養父を亡くしたというスウィークが、今期3勝目、3大シリーズ戦としては今期2つ目となる勝利を、天に捧げた。
【スーパープレスティージュ最終戦「ミッデルケルケ」男子リザルト】
この結果を受けた、スーパープレスティージュ2020-2021男子の総合最終成績は以下の通り。
【スーパープレスティージュ男子最終総合リザルト】
こちらも、女子同様のわずか2ポイント差でアールツが逃げ切り、総合優勝を確定。
過去2年、連続して総合優勝を成し遂げてきたUCIワールドカップでは今年総合4位に沈んでしまったが、代わりにこのスーパープレスティージュで総合優勝したことで、3年連続の3大シリーズ戦制覇。
UCIランキング的にも現在首位を走っており、男子現役シクロクロス界のトップクラスに間違いなく君臨する男であると言える。
一方のイゼルビットも、ヒュースデン=ゾルダーでの落車・怪我さえなければ、総合優勝を飾っていても全くおかしくはなかった。
彼にとっては残るX2Oバドカマー・トロフェーにおける総合優勝を何としてでも守り切りたいところ。
こちらは2位のトーン・アールツに3分近いタイム差をつけているため、よほどの何か(それこそ再び落車リタイアなど)がなければ、逆転されることはほぼほぼないはずだ。
【参考:X2Oトロフェー男子第6戦までの総合リザルト】
もちろん、レースというのは何が起こるか分からない。
明日、2/7(日)のX2Oバドカマー・トロフェー第7戦「リール」および来週2/14(日)の最終戦「ブリュッセル」に引き続き注目していこう。
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