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【真実】機械から愛を感じた日

僕の車にあいつが同乗するようになって1年になる。

保険会社の斡旋で、本体の価格は不要ということなのでついに取り付けることにした。憧れのドライブレコーダー。
付けてみて、ありがたいことに活躍の場はまだ無いのだけれど、なんというかこやつ、良くしゃべる。そのくせ・・・


■堅い

「まぁまぁそう堅いこと言わずに・・」とはいかにもドラマの中のセリフだが、僕は車中で何度も言うことになった。

こやつ、ドライブレコーダーのくせにもの凄く気軽に話しかけてくる。「今日はこのあと雨降るから気を付けて下さい!」みたいな感じで、初めて会った日からものすごい早さで間合いを詰めてきた。

そのくせ動きは遅い。

いつも出発してちょっと経ってから、この前は急発進が何回だったとか突然上から目線で話しだし、そうこう言っている間に路駐の車を避けて走るとピピピピピ!とものすごい剣幕で「車線がズレています!」と怒りだす。

アニメに出てくる学級委員長並みに神経質だし、抑揚のない声で正論しか言わない。始めはつまらないやつだ、と思ったけどいかにも友達がいない典型的な性格で、だんだん可哀想になって来た。

その度に僕は「まぁまぁそう堅いこと言わずに」となだめるのである。


■純愛

右折レーンに減速しながら入り、中央分離帯の草花に夏の終わりを感じていたら、ピピピピピ!と言ってわき見運転を注意された。

驚いた。こやつ、僕の視線まで見ている。まるで私から目をそらさないで!とまくしたてる狂気の束縛彼女のようだ。

そんなんじゃモテないぞ!と余計なことを言いそうになったがそこはグッと堪えて右折のタイミングを窺う。
駐車場に車を入れてエンジンを切ると、「お疲れさまでした。」と抑揚のない声が帰ってきたが僕はその途中で車を降りた。そのあとあいつがどのくらい、何をしゃべっているのかは知らない。


そんな時だった。

僕は旅行先でレンタカーに乗った。そこで出会ったドライブレコーダーもまた大して抑揚のないものだったのだが、エンジンを切った時「今回はスタートの仕方が前回より良かったです。この調子で頑張って!」みたいなことを急に言い出した。

不覚にも、嬉しかった。

ドライブレコーダーと同乗するようになって1年ぐらい経ったけど、褒められたのは初めてだった。いつも正論で、ダメ出しばかりだったから。

浮気しそうになった。この場合、何をどうすることが浮気に当たるのかはよくわからないけど、僕はそれぐらい嬉しかった。一瞬、遠い自宅に置いてきたあいつを想い出したけど、頭を振ってすぐに脳裏から消した。


■そして今日も

ピピピピピ!急発進です。

今日もこやつは正論を投げかけてくる。今のが急発進なら全員牛車みたいになっちゃうぞ!と言いかけて止めた。

でも、
健気に想い出を記録し続けていると思うとちょっと可愛かったりす・・・しないか。




本日も、最後までお読みいただきありがとうございました!

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