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【創作プロジェクト「オテアワセ」作品】祝宴

創作プロジェクト「オテアワセ」では、様々なジャンルの作り手たちが共通のテーマで作品を創作しています。「祝宴」というテーマに沿って書いたエッセイをご紹介します。 

お祝いの席に参加すると、楽しみなのが余興だ。結婚式での友人同士のカラオケや、同僚の寸劇といった愛嬌あふれるものから、年配者が朗々と歌い上げる民謡、艶やかな日本舞踊といった重みのあるものまで、ジャンルは違えど、新郎新婦を祝福する気持ちが溢れている。

また、地域のおまつりの慰労会で見た、その場にあるものを使った、即興のマジックや皿回しなんかも盛り上がる。マジックのトリックはバレないし、皿回しの皿は割れないしで、実に見事で拍手喝采。見ているこちらまで笑顔になる。

 …と今まで色々な余興を見てきたが、一番印象に残っているのが、「さんさ踊り」だ。
10年以上前に、岩手の盛岡で行われた従兄弟の結婚式の席だった。
 さんさ踊りは、盛岡市内とその周辺で藩政時代から踊り継がれているという伝統のある踊りだ。毎年8月の初めには4日間にわたり、市内中心部でパレードが行われ、子どもから大人まで踊る。

 だが、県外から来た私は、見るのが初めてだった。
式の後半、キャンドルサービスや余興がひととおり終わった。私は、少し酔っぱらった状態で、隣にいた叔母と話していた。すると会場が少しライトダウンされた。そして、会場の下手の方から太鼓の音がした。

音のする方を見ると、両肩に太鼓を抱え、見たことがない衣装を着た人たちが列になって踊りながら、花道をゆっくり進んでいくのが見えた。「あら、さんさ踊りだ」と叔母が言うのを聞き、「踊るのは、夏のまつりだけじゃないんだ」と思った。
躍動感がある太鼓の音が鳴り響いていた印象が強い。「会場のみなさまもご一緒に!」の掛け声で次々と、新郎新婦の会社の上司や友人たちが踊りの列に加わり始めた。
踊りが体に身についている人は地元の人だろう。逆にぎこちなく周りを見ながら踊っている人たちもいた。そして、列が高砂席の前に着くと、新郎新婦も加わった。タキシードとウエディングドレス姿で照れながらも楽しそうに踊る二人。祝福ムードが最高潮に達した。

気が付くと、会場全体が一つの輪になっていた。それはとても温かくて、新郎新婦への想いに溢れていた。そんな余興を見たことがなかったので、しばし見とれてしまった思い出深い祝宴のひとコマであった。(おわり)

・創作プロジェクト「オテアワセ」の Instagramでは、他3名の作品を発表しています。ご覧いただけると幸いです。