お母さんの遺影

今日は遺影のお話し。
ちょっと重めのワードだけど、悲しいお話しではないので、よかったら読んでください。

昨年、私の母は亡くなった。
６７歳だった。
不慮の事故で若く亡くなる方もいるけれど、それでもやっぱり早い死だと思った。

おじいちゃんが亡くなったのは７２歳。
その時も家族みんなで「早すぎるよ。」と言っていたと思う。
おばあちゃんは９０歳を過ぎてからだったしね。

お母さんが入退院を繰り返して、私も心づもりはしていたけれど、その日は急に訪れて、そしてお葬式の準備をしなくてはならなかった。
死を悲しむ暇もないまま、手続きやら決めごとで忙しいのは、ある意味いいことかもしれない。

そして遺影だ。
実はお母さんは遺影を自分で用意していた。

入院したときに、お父さんに写真を預けたらしい。
その時は、お父さんも「そんな話するなよ。」と言ったけれど、その写真はとても素晴らしかった。

いったいいつ頃に撮ったものなのかはわからないけれど、そこには私が大人になってから一番記憶しているお母さんの姿があった。
お気に入りの服を着て、髪も美しく、姿勢も決まっていて、そして穏やかに笑っていた。
美しかった。
きちんとどこかの写真館で撮ってもらった写真。

今は写真を加工して喪服にもできるけど、お母さんの私服のまま遺影にした。

自宅に戻りお母さんの遺影を見ていると、家族の誰かが「モナリザみたいだ。」と言った。
その写真は、正面を見て微笑んでいるのに、ちょっと横から見ても目が合い、私を見てくれているような不思議な写真だった。

お葬式の最中は、その微笑みが悲しく思えたけれど、落ち着いてから見るとなんていい写真を残してくれたんだろうと思う。

お母さんは気づかいの人だった。
年賀状も自分で「来年からはご遠慮します」とあいさつを済ませていた。
自分のお金関係の手続きはすべてファイルされていたし、携帯なんかのパスワードはノートにまとめられていた。
近所の人にも聞かれるより前に「私、がんになっちゃったんだー！」って明るく伝えていたらしい。
近所の人が「畑行く時に言われてね～。びっくりしたのよ。」と、教えてくれた。

だから四十九日で実家に帰った時は、お悔やみでたくさんの人がお線香を送ってくれて、仏壇の前に置ききれないくらいになっていた。
お父さんは「線香はもう使いきれんな！」と多めに火を灯し笑っていた。

話しは変わるけれど、私が入っているクリエイターグループにお母さんと同年代の女性がいる。
その方は６０歳を過ぎてiPadでお絵描きを始めたり、海外へ行きドレスの撮影をしたりしている。
そして今月からは５０歳以上の方を募って自分のコミュニティも始めた。
とてもエネルギッシュな方だ。

だけれど、以前に病気になって生死の境をさまよった経験があるそう。
そして、撮影をするのは自分の遺影を撮るためだったそう。

おそらく、ほとんどの人が何の目的もなくドレスを借りて、スタジオを借り、カメラマンを手配して、メイクをしてもらって自分を撮影するのは抵抗があるんじゃないかと思う。

でも、その方は一度死にかけた。
その経験があるからこそ、人はいつ死んでもおかしくないと知っている。
そして、人が死ぬとすぐに決めなければいけないことがたくさんある。
それは、すべて残された家族の負担になるのだ。
だからこそ、そこで一枚の最高に輝いた美しい遺影を残せたらと思っているのだ。

それは私の経験で言わせてもらうと、きちんとした遺影があるだけで嬉しい。負担が軽くなって嬉しいというよりは、ちゃんとその人を見送れるという感じだ。
あーそうだ、お母さんってこんな服が好きだったよね。
こういう風に笑うんだよね。
そういえば…って、話題は尽きない。

この間お会いした時に、お母さんの遺影の話しを聞いてくれた。
素晴らしいね！と言ってくれた。
一緒にご一緒した方は、まだお母さまが健在で「母娘で撮るのもいいんじゃない？」とも。

もう一人の方は福祉関係の仕事をされていて、やっぱりベッドで寝ているおばあちゃんにもきれいな服をあててあげて写真を撮ると、喜んでもらえると言っていた。

これから、遺影を撮ることを企画したいと言っていた。
そして「遺影」という言葉は少し重いから、何かいい言い方はないだろうか？とも言われていた。
メモリアルフォト？とか？
これから少し先の未来。
遺影を撮るために元気になっちゃう方がいたとしたら、それはきっとここから始まるムーブメント。

私も、もしお母さんが生きていたなら、きれいな服を着て撮影して、はしゃぐ姿を見てみたい。