パスピエ「synonym」

2020年ベストアルバムをそろそろ考えたいな~なんて思っていたところに、こんなトンデモアルバムがリリースされてしまった。困っちゃう。

パスピエを聴き始めたのは確か一昨年ごろで、彼らの全ての楽曲に触れているわけではない。アルバムはだいたい聴いたと思うけど、リリース順は意識せずに聴いている。加えて、インタビューなど彼らの発信する曲そのもの以外の情報はあんまり見たことがない。だから、このアルバムがパスピエの経歴の中のどんな位置にあるのかは、私には正直分からない。でも、分からないからこそ湧き上がってくる純粋な感想ってきっとあるよね、ということで、私がこのアルバムを聴いて感じたことを細切れに書いてこうと思う。

1.「まだら」のパンチの強さ

1曲目に「SYNTHESIZE」や「Q.」でなくて「まだら」を置くっていうのが、パスピエのヤバさなんじゃないかと、一聴した時に感じた。もちろん「まだら」はシングルカットされている曲だし、比較的「聴かれている」曲だとは思う。ただ、このある種の不気味さに溢れた曲をアルバムの先頭に持ってくるのが凄い。

サブスクリプション型の音楽サービスの普及でいろんな音楽が低コストで聴かれるようになってくると、その分アルバムの1曲目だけ「聴き捨て」してもう戻ってこないなんてこともザラにあるだろう。フィジカルだったら「もったいないし、とりあえず1周」ってなるかもしれないけれど、サブスクリプションだと「止める」ことに関する心理的コストがめちゃくちゃ低い。多分、自分の推しじゃないアーティストでもとりあえずアルバム全曲聴くなんてことをやっているのはオタクだけだと思う。私達のような。

その大事な1曲目で、こんなにも人を選ぶような楽曲で勝負するのがある意味感動的だ。後から思い出してみると、「more humor」なら「グラフィティー」、「&DNA」なら「永すぎた春」、「娑婆ラバ」なら「手加減のない未来」と、今までは「1曲目らしい」曲が置かれている感じがする。今回のアルバムの1曲目は、ドキッとさせられる。私の場合は、良い意味で。他の人にとっては、悪い意味かもしれない。でも、印象には残るだろうな。

2.「Q.」~「SYNTHESIZE」の安心感

1曲目で揺さぶられ、一体このアルバムは何を考えているんだ……と緊張しながら2曲目を聴いたときの安心感よ。パスピエのキャッチーな部分が存分に発揮されているめちゃくちゃ良い曲。現在(2020年12月18日17時37分)のパスピエのトップソングの1位がこの曲ってのも納得。「大なり小なりまいどあり」、声に出して読みたい日本語リストに入れておこう。途中の転調も気持ちよすぎる。

「現代」のAメロはパスピエ節って感じでとても好きなんだけど、パスピエ以外でこんな譜割り(?)音階(?)使うアーティスト見たことない。パスピエ慣れする前は凄く違和感あって胸のあたりがもぞもぞしてた。「SYNTHESIZE」もAメロが大好き。大胡田さんがちょっと気怠い感じのトーンで歌っているの凄くセクシーだな。

3.これ、どっかで聞いたことある!(無知)

「プラットフォーム」のイントロを聴いて、鳥肌が立った。これ、絶対にどこかで聴いたことがある!と。

ライトなファンなのでとっさに曲名が出てこなかったんだけど、10分くらい考えてやっと分かった。正直なところ今も自信がないんですけど、これって「最終電車」のセルフオマージュじゃないかしら……

あんまり音楽理論のこと知らないのが恥ずかしいんですけど、何をもって私は似ていると気づいたんだろう。「最終電車」だ!と気づいてからそっちを聴き直したんだけど、メロディーは結構違った。サウンドかなあ。でもメロディーもなんか似てると思ったんだよなあ。こういうところを解き明かすのがメジャーキーとかマイナーキーとかコード進行とかなんだろうけれど、私は残念ながらそこら辺に詳しくない。勉強したい。

4.「oto」~「真昼の夜」まだもやもやするゾーン

この2曲、アルバムを1日中周回しまくってもなんだか耳に馴染まない。特に「真昼の夜」は、先行リリースされたときから聴いているのに、言葉を選ばず言うととても気持ち悪い感じがしてもやもやする。ここの理由も解き明かしたい。単に私の個人的な好みの問題?それとも、何か音楽的に型破りなことをしている?有識者の意見を求めたい。


5.「Anemone」~「人間合格」は噛めば噛むほど美味しい

俗な表現をすれば「スルメ曲」ってやつ。最初の方は前2曲の不気味さに引っ張られてもやもやしてたんだけど、どちらもサビの進行がすごく好きなことに気付いて、最近はこの2曲を単曲リピートしている。

特に「人間合格」は不穏なイントロ~サビ~不穏なAメロ~短いBメロ~サビ~間奏の流れがめちゃくちゃ好きで一日中聴いている。歌詞の世界観も好きだな。よくわかんないけど他の曲よりは比較的わかりそうなこの感じ。でもやっぱりわからない。

6.「tika」~「つむぎ」で懐かしさを感じる

なんだかこの2曲は2~3年前のアルバムに入っていても違和感がなさそうな曲だなと感じた。特に「つむぎ」はもっと初期のアルバムに入っててもいけそう。ここがこのアルバムの不思議さなんだよな。1曲目でこのアルバムは今までと違うモードなのかと思いきや、そのあと安心させつつも新しいパスピエを見て、最後は懐かしさで溢れている。なんだこりゃ。

このような感想になるのは、私がライトなファンだからなのか、それともヘビーなファンが聴いてもこういう聴こえ方をするのか、とても気になる。


まとめ

以上、軽く「synonym」をレビューしてみました。感想を一言でまとめると「聞き終わった後に不思議な気持ちになるアルバム」という感じです。「つむぎ」が終わった後に呆然としてしまう。まだ頭の中で整理できてないのもあるかもしれないけれど。そして何より、「つむぎ」を聴いたあとに「まだら」に戻るとその温度差で風邪を引きそうになる。この2曲が同じアルバムの最初と最後なのか……

頭の中がごちゃごちゃになるくらい、非常に魅力的なアルバムでした。

おわり



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