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140字小説(ついのべ)/ 俺の家が代々仕えていた家が他15作

2023年2月前半の140字小説(ついのべ)15作です。


俺の家が代々仕えていた家が没落した。当主がクズだったせいだ。影響を被るような時代ではないから構わないが、俺としては、幼馴染みであるそこの優秀な孫息子が何も手を打たなかったことが不思議でならない。「欲しいものがあったから傍観してたんだ」「何をですか?」「お前のタメ口」
(2023.2.4) 


飼い主が出勤している間、猫は一匹ぼっちである。でもときどき飼い主が変な時間に帰ってくることがある。猫を撫でまくり、たまに少し泣いて、また部屋を出ていく。最近気づいた。あれはいつもの飼い主ではない。たぶん何かの機械で、未来から来ているのだ。そこにはもういない自分に会いに。
(2023.2.5)


「この地は貧しすぎて子供が育たない」男が語る。「だから幼いうちに魔物を憑ける。食物が少なくても平気だし、獣とも人拐いとも戦える」だがと続けた。「大人になる前に自分で魔物を退かせないと、魔物と同化しちまう。俺みたいに」そして森の奥へ帰っていった。七つの尾を引きずりながら。
(2023.2.12)


飲み屋でたまたま隣に座った男に「友達になってくれ」と言われて、酔った勢いで「別に構わんが」と答えてしまった。想像もしなかったのだ。その男がじき病で死ぬなんて。男の『友達』が俺を訪ねて来るなんて。「友達の友達は友達なんだろ」そうして一人ぼっちの妖怪を押し付けられるなんて。
(2023.2.10)


知能は高いが人ではないモノと仲良くなった。更に一歩進んで友達になろうと、そのためのルール作りをしているのだが、第一条の『人を食べない』からもうつまづいた。「生きてるのはともかく、死んでるのならいいだろう?」先は長い。
(2023.2.10)


子供の頃、『コックリさん』て流行ったことあるだろ? 俺のクラスだけ『タカギさん』だったの。『タカギさん、タカギさん、遊びましょう』って呼ぶの。タカギさん、同じクラスの子だった。転校したって校長は言ったけど、死体で見つかったんだって皆知ってた。担任の教師のせいだったことも。
(2023.2.9)


古い家を購入したのだが、毎夜、黒い影が廊下に現れる。近所の拝み屋に金を積み、よい呪文を聞き出してきた。夜、早速唱えると、なんと影の方も同じ呪文を唱え出す。あの拝み屋、相手を追い出す呪文を俺にも影にも売っていたのだ。結局意気投合して、明日、拝み屋を共に襲撃することにした。
(2023.2.7)


銀河宝くじが当たったので小惑星を一つ購入した。地球からはとても遠い。テラフォーミングして猫と移住した。この惑星の最初で最後の人間になるつもりだったが、その後けっこう増えた猫たちには世話人が必要だと思い直した。ということで後継者を探しに地球に帰って来たんだ。二十年ぶりに。
(2023.2.6)


ある朝のことです。とつぜん地球上の大勢の人類が消滅してしまいました。何が起きたのか誰にもわかりません。ただ一つ確かなのは、これには猫が関わっているということだけ。生き残っているのはみな猫を飼っている人だったのです。「どういうことなんだ?」訊いても猫はニャーと答えるだけ。
(2023.2.4)


「俺の実家は代々ドラゴン退治を生業にしていてな、幼い頃から修行させられてた」「それが辛くて家出したのか?」「いや。誇り高い退治人になるつもりだったさ」練習として用意されて何頭も無惨に屠った小型ドラゴン、鎖に繋がれてた奴ら、あれが全部生まれて間もない幼体だったと知るまで。
(2023.2.3)


病室で祖母が優しく言う。「いつか、あなたの愛する女性にあげてね」渡されたのは古い綺麗な指輪だった。祖母がずっと大切にしていたもの。僕は泣きそうになった。「何度も言ってるのに、最後まで聞いてくれないんだなあ」祖母の言う『愛する女性』なんて、僕には一生できないんだって。
(2023.2.1)


「タカヤのお年玉をくれ」現れたのは妖怪だった。甥っ子のタカヤは半年前に事故で死んだのに。「昨年、奴は俺と契約したのだ。この先お前から貰うお年玉を全部くれると」「何」「かわりに俺は、奴の友の死に至る病を治してやった」そうか。ならば払うしかあるまい。タカヤの意志を継いで。
(2023.2.1)


ずっと手放せずにいた、前カレから貰った指輪。仲のいい先輩に付き合ってもらって、橋の上から川に投げた。「さっぱりした?」「はい」私が笑顔で答えると、彼女はとつぜん靴を脱いで、中敷の下から何かを取り出した。「私も見習わなきゃね」そう言って川に放ったのは、男の人の写真だった。
(2023.2.15)


十年前に埋めたタイムカプセルを皆で開いた。中に差出人不明、『2組の皆』宛の手紙が混じっていて、『犯人は高田です』と書いてあった。ここに高田はいない。昨日死んだから。何もわからなかった。高田の死は本当に事故なのか。いったい何の『犯人』なのか。2組は平和なクラスだったのに。
(2023.2.14)


「『もったいない』って言葉、嫌いなんだよね」彼女はそう言う。「祖父母と父の口癖でさ」彼女は気軽に何でも買うし何でもすぐ捨てる。「私の母はね、その言葉どおり奴らに最後まで使われ尽くして死んだ。雑巾みたいに」奴ら、家出した私のことも『もったいないことした』と言ってると思う。
(2023.2.13)


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